ジャン・ホアン

PEOPLEText: Emma Chi

今回の展示は“壁の無い美術館”というコンセプトの実現を目指しているとのことですが、具体的に説明して頂けますか?

今回の展示では、その中の一つシロアリの作品を美術館ではなく、(ロックバンド・アート・ミュージアムと)連携している教会の広場に展示しています。また展覧期間内には落書き用の壁を準備するなどの観客と作り上げる教育イベントも計画しています。これはアートをより広めたい、文化をより多くの人に届けたいというロックバンド・アート・ミュージアムの希望から生まれたコンセプトです。

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数億匹のシロアリでつくり出した“シロアリ社会”

2005年はあなたのアーティスト人生の分岐点になっていると思われます。それ以前はパフォーマンスアートが創作のメインになっていましたが、2005年に帰国してからは、自身のアトリエを持ちインスタレーション作品の創作を始めました。一体何が創作スタイルの変化を促したのでしょうか?

長年に渡る海外生活で色々な考え方を持つようになり、帰国後も更に多くのことを感じ、多くの想いがありました。そしてこれらの多くの考えを形にし、現実のものにしたいという強い欲求が湧きました。そこで助手が必要になり、沢山の表現方法が必要になりました。私は、作品が絶えず何かを突破してくれると願っています。

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以前のパフォーマンスアートはあなた個人の制作であったと言えますが、現在の香灰画や版画、大型のインスタレーション、彫刻はグループでの制作です。個人での制作とグループによる制作ではどの様な違いがありますか?

個人での制作は一人の戦いですが、チーム制作は分業です。私のチームの中での役割は寺における住職、戦争における指揮官に似ていて、方針や手順を決めることです。作品の考えや制作の始めと終了は私がコントロールし、中間の工程は私のチームが私に代わって制作します。

あなたはどこの国、どの街のアートの雰囲気が好きですか?

中国の上海です。上海のアートを注意して観察してみると、その1日ごとの変化に驚くことでしょう。問題も多いですが。

そのこともあなたが上海に長期滞在している理由でしょうか?

上海を選んだのは、自分と家族、完全に個人的な理由によるものです。ニューヨークに行く前は北京に8年いました。ニューヨークにも新鮮さを感じなくなり、新しい環境が欲しいと思うようになりました。上海は現在も依然として伝統や文化の根を保ち続けている街です。帰国後ここを選んだのは、上海でならば創作に専念できると思ったからです。

私たちは、2008年末に上海の西南に位置するソンジャン(松江)工業地区の新しいアトリエに引っ越しました。周りには、新しく建てられた日本や韓国の工場、林、集落、ゴルフ場があります。新しいアトリエに移った主な理由は、この空間に惹かれたからです。この建物は70年代に政府が建てたもので、鉄筋コンクリートで造られており、現在上海に残っている数少ない古い工場の内の一つです。面積は15,000平方メートルあり、アトリエ部分は3,200平方メートルを占めます。また、敷地内には果物の樹や珍しい種類の樹木が沢山あります。

本業のアート以外で、あなたはオペラ「セメレ(semele)」の監督を務めたことがありますね。この大作オペラはベルギーの王立マネ劇場でも上演されました。その時の気分は如何でしたか?また、これからもジャンルを越えて他のことに挑戦することはあるのでしょうか?

2009年にこのオペラの監督兼舞台美術総監督をしました。450年の歴史がある中国の古い霊廟を、300年の歴史を持つヨーロッパのオペラハウスの舞台上に登場させました。その目的とは、セメレ悲劇の雰囲気を持つ東洋の古い部屋の中で、舞台上の役者に改めてヨーロッパ古典オペラの意義を導き出させるということです。劇場にやって来たヨーロッパの観客たちにも、この古い霊廟向き合うことで、まるでヒューマンドラマのような命の美しさと移り変わりに共感し、霊廟の主であるファン・シーシンの悲劇的な人生を感じてもらいたいという目的もありました。愛と憎しみ、生と死は我々人類が永遠に直面していく課題です。はるか千年も前の西洋の神話が提示した人類の苦しみの根源、そして現在東洋の田舎にある一般的な農民家庭の運命に至るまで、これらこと全ては絶え間なく我々に“人間の贖罪(しょくざい)”について考えさせています。

これは私の初めてのオペラの監督作品です。私は新しい試みをするのと何かを突破していくことが好きなので、面白いアイディアさえあれば、形式に関わらずどんなものでも実現したいと思っています。

好きな、もしくは憧れるアーティストはいますか?そしてあなたはどのように自分の創作スタイルを定義していますか?

何年か前にイタリアに行く機会があり、ルネサンスの三大巨匠のレオナルド・ラファエッロ・ミケランジェロの作品を鑑賞しました。彼らの作品はその名に恥じることがありません。

私が属するであろう流派や創作スタイルは後世の人々に判断してもらいましょう。私にとって最も重要なのは、良いアート作品をつくり出すことなのですから。

ジャン・ホアン個展「孔子に問う」
会期:2011年10月15日(土)〜2012年1月29日(日)
時間:10:00〜18:00(月曜日休館)
会場:ロックバンド・アート・ミュージアム
住所:上海市黄浦区虎丘路20号
TEL:86 21 3310 9985
入館料:15元
https://www.rockbundartmuseum.org

Text: Emma Chi
Translation: Daiki Kojima

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