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クリス・ウェア

PEOPLEText: Matt Smith

「世界一賢い子供、ジミー・コリガン」は、コロンビア万国博覧会が開かれた1892年のシカゴと現代の灰色の中西部の町を舞台に展開される。現代に生きる孤独で感情の欠落した36歳の男ジミーが生まれてから一度も顔を見た事のない父親に会いにシカゴからミシガンを訪れる。一方で母のいないジミー1世は心の通わない父親と臨終の床にある祖母を訪れる…。

ある意味で、「世界一賢い子供、ジミー・コリガン」は、ストーリー構成という面では保守的だといえるが、形式やページ構成、また語り口調においては同じページは2つとない。ウェアの奇抜な表現の中には、主観的で、ぶつぶつと物を言って考えるような、話そのものを進めるというよりは色や音をそこに加えて広げるといったものがある。その他にも、こと細かく区切られた場面や、さらに話の筋を散漫にするような夢の連続などがある。

ダニエル・リバーンは、インタビューをするためクリス・ウェアの自宅を訪問した際に、『ウェアのバンジョーや本、アンティークのおもちゃ、レコードと共に過ごせば、自殺をする人はいないだろう』と感想を述べている。

ウェアは、孤独と感情的な怠惰の絶望を見つめることを避けないので、読者は、ウェアによって投げかけられた私的で個人的な家庭の呪文を体験することになる。確かに、これはジミー・コリガンが読者に与える影響である。小物や骨董品や、小さくてリズミカルな手書きのタイトル、ところどころにある曲線的な装飾を使うことで、この作品は、“逃避”から生じる束の間の満足感や、よくありがちな反ヒーロー主義を否定している。ウェアは代わりに、読み手を引き込もうとしているのだ。彼の絵は、補足にすぎないという錯覚の背後には、完璧主義者の手によるものではない職人らしいアートが、ニヒルさと希望のなさを印象づけるのだ。

Text: Matt Smith
Translation: Naoko Fukushi
Images: Courtesy of Chris Ware and Pantheon Graphic Novels

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