ニック・フィリップ
PEOPLEText: Mariko Takei
80年代に「アナーキック・アジャストメント」での強烈なアートワークでアパレルからCG業界まで震え上がらせたニック・フィリップ。今年に入りCD-ROM作品「ラディカル・ビューティ」が、サンフランシスコ・マルチメディア・サミットで「ベスト・デジタルコンテンツ」を受賞するなど、モーショングラフィックスに力を入れている彼が、先月来日。NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で、新作「ポスト・ヒューマン」をテーマに、ビデオ・インスタレーションの展示などを行った。
ICCでの展覧会について教えてください。
「ニック・フィリップ・セレクテッド・ワークス」というタイトルで、基本的には今までの作品を展示したんだ。ひとつは「アナーキック・アジャストメント」というアメリカで展開してたストリートウエアのデザインの展示。カリフォルニアではアナーキックは「コンシャス」ストリートウエア・ラインのひとつであって、特にそのデザインコンセプトを重視した形で、沢山のアナーキックのデザインを展示したんだ。あとイギリスとアメリカ等の「ワイアード」誌や、レコードレーベルやアンビエントアーティストのために手がけた作品を展示したり。
「ラディカル・ビューティ」の展示は何台かのパワーブックに繋いで、来た人が自由に見れるようにした。そのビデオ上映では抜粋したアニメーションをプロジェクターに通したんだけど、サイドから2つのプロジェクター、前から一つのプロジェクターによって3つのスクリーンで作った囲いに映しだされるという仕組になってて、その囲いの中に座ると完全に映像に囲まれちゃうんだ。
他には「nowhere.com」というインターネット・インスタレーションで、これは一緒に来日したプログラマーのジェフ・テイラーとの共同作。このドメインはインターネット上でジャンク・メールを流布しているスパマーズに使われてて、何百っていうスパマーズが「nowhere.com」を使ってドメインを偽ってるんだよ。だから何千もの電子メールが毎日そこを通過していってる。そこで『スパムするな!』っていうようなやり取りが交されたりもしているんだ。「nowhere.com」っていうのは電子メール・ブラウザーにも表われないし、返信フォームにも現われない。だから沢山の妙なことが展開されている。
そこで僕達がやったインスタレーションは絶えずインターネットに繋いだコンピュータを用意して、そこでメール中継する。そのメールを12のファックスモーターに分配して、12機のファックス・マシーンに繋いだんだ。壁一面に並べられたファックスがただただ送られてくるメールをプリントし続ける。それで床に置いてあるゴミ箱に流出されるファックス用紙がどんどん集められていくんだ。1万5千メートル以上ものファックス用紙を使ったんじゃないかな。今日片付けたんだけど、ビデオに撮らなくちゃって思ったよ。リアルタイムで受信してて、展覧会期間中ファックス・マシーンがすごい早さで動いているんだ。
このインスタレーションはこの展覧会で特別に行ったもので他にもいくつかインスタレーションをした。「lightbox」もそのひとつでポスト・ヒューマニズムのアイディアをもとにした作品。人間の進化をテクノロジーでどう再定義していくかっていう、テクノロジーとバイオロジーが交錯しているところがそのアイディアとなっている。作品としては等身大のポスターみたいなもので – 頭や胸、足があって- それ自体が実物大のボックスとなってる。
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