デレク・ジャーマン「グリッターバグ」

THINGSText: Atsuko Kobayashi

80年代に入ると、ウイリアム・S・バロウズの最後の学会や、ダンサーのマイケル・クラークのダンス、スロッピンググリッスル/サイキックTVのジェネシス・P・オリッジとのトークシーンやライブ、パンクロックコンサートなどが撮られており、彼の作品に通ずる刺激的で退廃的だった80年代のカルチャーシーンが残されている。


「ラスト・オブ・イングランド」 1987年/87分
音楽:サイモン・F・ターナー
出演:ティルダ・スイントン、スペンサー・リー
大英帝国の現在、過去、未来、そして終焉を狂うように美しい映像で描いた作品。80年代の停滞感、荒廃した気分を表現している。デレク・ジャーマン作品の集大成ともいえるフィルム

また、このフィルム用にブライン・イーノが新たにつけたサウンドトラックも重要なファクターとなっている。静かで眩惑的なエクスペリメントサウンドが、デレク・ジャーマンの記憶を辿り、彼の見ていたその時、その場所へと私たちをタイムスリップさせる。


「ザ・ガーデン」 1990年/85分
音楽:サイモン・F・ターナー
出演:ティルダ・スイントン、ロジャー・クック、スペンサー・リー
ホモセクシャリティ、 宗教、ジャーマンのエイズとの闘い、そして彼が愛したダンジェネスの庭とがリンクされ、ショッキングでありながらひたすらに美しい映像で綴られたフィルム

このフィルムにある映像は1986年までである。その後ジャーマンはHIV感染している事が判明、原子力発電所のある特別科学目的地区ダンジェネスのコテージに移り住んだ。彼はそこで花々を植え育て、でき上がった色とりどりの花に囲まれた「デレク・ジャーマンの庭」は、今でも多くの人が訪れる場所になった。


「エドワードII世」 1991年/90分
音楽:サイモン・F・ターナー
家臣に心を奪われた実在の王エドワードII世と、王妃イザベラとの葛藤を、ゲイ差別が行われる社会に対して現代的な解釈によりメッセージを込めて描く。ユーリズミックスのボーカリスト、アニー・レノックスが特別出演。’91年ヴェネツィア主演女優賞、’92年ベルリン映画祭国際批評家賞

その間にもジャーマンは映画を撮り続け、「ザ・ガーデン」(1990年)、「エドワードII世」(1991年)、「ヴィトゲンシュタイン」(1993年)、そして自分の体を蝕むエイズを描いた「ブルー」(1993年)を撮影した。『撮りたいと思う映画を撮れる映画監督は幸せだ。私は気持ちに染まない映画を撮ったことは一度もない』と言うデレク・ジャーマン。彼は地球を壊し続ける人間の愚かさ、歴史や慣習や宗教に囚われ争いの絶えない世界、人を愛する事で死を招いてしまう病に対して、真摯に突き進んでいった。

ジャーマンの作品を幾つか見た後に「グリッターバグ」を見ると、彼が最期にコラージュしたこのフィルムには、共に生きた仲間たちへの愛と、真実とピュアリティに満ちた人生そのものが残されていることに気付く。まだこの先の未来を生きていく私たちへ残された、デレク・ジャーマンからのメッセージを是非受け止めてほしい。

GLITTERBUG
1994年/イギリス/60分
撮影:デレク・ジャーマン
編集:アンディ・クラップ
音楽:ブライアン・イーノ
配給:UPLINK

Text: Atsuko Kobayashi
Photos: Courtesy of UPLINK

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