デレク・ジャーマン「グリッターバグ」
THINGSText: Atsuko Kobayashi
光り輝ける者たちへ デレク・ジャーマンが駆けぬけたライフ、ラブ&ワーク
「グリッターバグ」には、1994年にこの世を去ったデレク・ジャーマンのプライベートなシーンと、彼でなくては撮れないであろう独特の視点によるフィルムワークが詰まっている。1970年から86年までに、スーパー8で撮りためた映像のコラージュ。病床にあったジャーマンの意を受け継ぎ、デヴィッド・ルイスが完成させたフィルムである。
あたかも思い出の一つ一つが脳裏にひらめき、浮かんでは消えていくかの如く、ランダムに、早廻しで現われる過去のシーン。初の長編映画「セバスチャン」(1976年)撮影時のスタッフやロケ地、「ジュビリー」(1978年)、「イン・ザ・シャドウ・オブ・ザ・サン」(1980年)などのワンシーン。「テンペスト」(197年)の撮影を行った教会、「ラスト・オブ・イングランド」(1987年)などに出演したティルダ・スイントン。
「ジュビリー」 1978年/103分
音楽:ブライアン・イーノ、アダム・ジ・アンツ、スージー&ザ・バンシーズ
出演:トーヤ・ウイルコックス、アダム・アント、イアン・チャールソン
近未来のロンドン。暴力、略奪、犯罪を繰り返すパンクスたち。未来の荒れきった都市&パンクロックを通して、現実の闇のイメージを表現したフィルム。公開時、ヴィヴィアン・ウエストウッドは怒り、失神者も出たという作品。しかしジャーマンの両親は理解を示してくれた、という
自らがゲイであることで、多くの葛藤があったであろうジャーマンは、どの作品でも狂おしいまでの美しい映像と詩的な表現でホモセクシャリズム、宗教、戦争や破壊といったテーマを現し、タブーや慣習から解き放たれ自由になること、そして生きていくことの美しさをフィルムにしてきた。
上映するたびに論争をもたらした映画監督の私生活や映画制作の裏には、沢山の友人との忘れ難い時間があった。その多くは既に亡くなっている友人や恋人、スタッフ、出演者達とのひとときであり、彼らの笑顔が次々に浮かんでは消えていく。
「テンペスト」 1979年/97分
出演:トーヤ・ウイルコックス、デヴィッド・メイヤー
シェイクスピアとエドガー・アラン・ポーの合体。ドラマと詩、幻想と闇のなかに描かれるジャーマン版「テンペスト」
「グリッターバグ」ではまた、映画監督だけでなく、画家、詩人、舞台美術家としての顔も持つデレク・ジャーマンの視点から、70年代〜80年代のエキセントリックなロンドン・カルチャーシーンを覗く事ができる。ゲイファッションのショーのバックステージや、彼の活動拠点であったスローンスクエアのフラットに集まる仲間たちを撮ったフィルム「スローン・スクエア」のシーン、マリアンヌ・フェイスフルのプロモーションビデオ「ブロークン・イングリッシュ」の撮影シーンなどから、ジャーマンのライフスタイルや70年代のアート、ミュージック、ファッションムーブメントを感じることができる。
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