泉太郎 展「夜の嘘」

HAPPENINGText: Chieko Nakagawa

なぜ「night lie」(夜の嘘)なのか、泉太郎は展覧会のテキストの中でこう語っている。

『映像について考えるには夜について研究するのがよいと気付いたのは、12月の夜中にパリの川べりから町の中を歩いていた時でした。(中略)映像は暗闇でしか視認することができない夜空に見える無数の天体のつぶつぶと似たような存在を示します。それらの天体より近くにあり現実感の象徴のような町や風景の様子が闇の中に溶けているほど、遠く現実味はないが確実に存在する、あるいは存在したはずの天体は輝く、それは私が映像を使うことで考えている距離感に繋がります。夜は背景と主体の差が曖昧になる、あるいは逆転する状況だとも言えます。』(展覧会プレスリリースより抜粋)

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“night lie” Exhibition view, Taro Izumi Photo Courtesy of George Philippe & Nathalie Vallois Gallery

泉太郎の所属するジョージ・フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ギャラリーの展示室は、大きな天窓からの日の光が差し込むのが印象的な明るい空間である。まず目に入るのは展示室中央に置かれた重厚感のあるベット。パリの路地を彷彿させる石畳とメトロの排気口が敷かれており、排気口からは下の扇風機から風が出ている。そのベットを囲むように、壁には4つの映像作品が掛けられている。

映像は、アニメーションのようにも見えるが、近づくと背景以外は“現実”の風景であることが分かる。正確には、背景となっている部分には夜空のペインティングを施された実際の人物の肌が合成されているので、全て現実の映像と言うべきだろう。女性の裸体というのは西洋美術史では見られる対象として描かれてきたが、ここでは背景の色で塗りつぶされており、その身体を鑑賞することもできない。一方で、普段ただの青や白と認識されている昼空は、女性モデルの肌そのものなのだが、私たちはそれをどのように鑑賞するべきか迷ってしまう。今まで美術館で“見るべき”とされていた対象はどこにあるのか?

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Puiser un nerf de rivière (Draw a nerve of river), Taro Izumi Photo Courtesy of George Philippe & Nathalie Vallois Gallery

入り口近くにある好奇心をそそる不思議な車がついたスタンドは、どことなくアジア的なキッチュな雰囲気や、日本の屋台のような雰囲気をもっている。恭しく飾られているのは様々な種類の枯葉である。精巧に作られているが、すぐに紙で作られたイミテーションであることに気付く。ビデオには、その登場人物たちが、葉っぱを製作する様子とパリの道端に置いてゆくシーンが映し出されている。枯葉は本物の葉たちにすっかり同化しているようにも見える。ただよく見ると、周りの葉たちは青々として生きている。枯葉は、季節外れで、少し風が吹いて飛ばされれば、裏面のむき出しになった白い紙が見えてしまう。この映像での主役は、背景の本物の葉っぱではなく、本当に“偽物”の枯葉なのだろうか?

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Piscine (Pool), Taro Izumi Photo Courtesy of George Philippe & Nathalie Vallois Gallery

奥の小さな小部屋には、カメラの三脚が天井から逆さまに設置されている。カメラはそれぞれ異なったライトに照らされた壁を写し、リアルタイムで3つのテレビに映像を映し出す。壁とは、本来ならば空間を区切るものであり、それがオブジェとなることはない。あらゆるものをアート作品と見なしてきたコンテンポラリーアートでさえ、ホワイトキューブは“何もない”空間であり、それを囲む白い壁は無とされる。それでも、ちょっとした視点の転換でそれは見られる対象になる。同時に、室内に流れる軽快な音は、虫のオブジェを太鼓のようにしたゴミ箱で叩く映像と、交尾をしながら歩いているカメムシの映像が流れている。普段なら、気付くきっかけもなさそうなものが、ここでも見るものとして立ち現れている。

現実とは-きっと私たちの世界の見方のことなのだ。背景と対象がうつろうように、昼の中に夜が紛れ込むように、私たちは世界を自分のレンズで切り取って頭の中で再現している。泉太郎は、華やかなパリの街で見過ごされている物を私たちの視界の前に差し出す。

Taro Izumi Exhibition “Light Lie”
会期:2017年4月28日(金)〜5月27日(土)
開廊時間:10:30〜13:00 / 14:00〜19:00(日曜日休廊)
会場:George Philippe & Nathalie Vallois Gallery
住所:36, rue de Seine, 75006 Paris
TEL:+33 (0)1 4634 6107
https://www.galerie-vallois.com

Text: Chieko Nakagawa
Photos: Courtesy of George Philippe & Nathalie Vallois Gallery

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