北海道アール・ブリュット展

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

最後に紹介するのは、本展の特別招待作家であり、アール・ブリュットの文脈で評価されている作家・林田嶺一(江別市在住)によるコラージュ・半立体の3連作「天津飯店(チャイニーズアールヌーボー)」だ。

林田嶺一
「天津飯店(チャイニーズアールヌーボー)」© 林田嶺一《特別招待作家》(1933年〜), 2016年, ミクストメディア, 3連作

少年時代を満州、上海、大連などで暮らした当時、日本帝国軍が夢想した仮想国際都市の混沌、敗戦の日本に引き上げ北海道の地にたどり着くまでの長大なロードムービーを、長く封じ込めて来た身体の記憶として40歳代の頃から描き始めたという。
当時のポスター広告、雑貨などをモチーフとしたポップアートは、2001年にキリンアートアワードで優秀賞を受賞して突如脚光を浴び、以降は国際的な美術賞を相次いで受賞している。

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コンセプト・ムービー制作:早坂あきら

入り口の壁面には、インタラクティブな映像作品を発表している、北海道旭川市出身の早坂あきらが制作した本展のコンセプト・ムービーが上映されている。『動かないはずの絵が動いたら』『2人の全く似てない作家による、全く異なる作品の“中間”が見られたら』とのコンセプトで、アール・ブリュット作家達による絵の輪郭を解析し、前の絵の輪郭を次の絵の輪郭に順次近づけていく仕組み(メッシュ・デフォルメ等)が面白い。

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北海道アールブリュット2016 札幌展, 2017年, 大通美術館, 札幌

クロスホテル札幌から徒歩圏内にある大通美術館では、同協議会の主催による「北海道アールブリュット2016 札幌展」が1月24日から29日まで開催され、28日のフォーラム「アール・ブリュット その可能性と豊かさ」には、クロスホテル札幌のキュレーションや、アートフェア札幌のディレクターを担当している本誌編集長・大口岳人も、現代アートのコマーシャル・ギャラリー及びマーケットの立場からゲストとして登壇した。

2010年にパリ市立アル・サン・ピエール美術館で開催された「アール・ブリュット・ジャポネ展」が、好評で会期が延長され、関係者から次回開催を待望されるなど、日本のアール・ブリュットはヨーロッパでも注目されている。来年はスウェーデンとの国交樹立が150周年となる事に関連し、現地で日本のアール・ブリュット作品が発表される動きがあり反響が楽しみだ。

また、芸術療法で患者の心を癒した女性医師の不屈の愛を描いた映画「ニーゼと光のアトリエ」の公開や、美術専門誌「美術手帖」2月号でアウトサイダー・アート特集が組まれたり、アール・ブリュットの芸術家の中でもトップクラスの知名度を誇るアドルフ・ヴェルフリの大回顧展が国内の美術館で巡回するなど、国内の動きも盛んだ。

障がいの有無に関わらず、アール・ブリュットは今後より注目される分野となりそうだ。

MACHINAKA ART-X edition vol.23
「北海道アール・ブリュット展」

会期:2017年1月14日(土)〜3月31日(金)
出展作家:上杉克也、蛯子陽太、田湯加那子、鉄地河原勝彦、松島ひろみ、三浦明菜、吉田幸敏
特別招待作家:林田嶺一
会場:クロスホテル札幌 ロビー・ミートラウンジ
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画課 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
アドバイザー:菊地雅子(当麻かたるべの森美術館)
協力:北海道アール・ブリュット・ネットワーク協議会、まちなかアート
https://www.crosshotel.com/sapporo/

Text: Ayumi Yakura
Photos: Ayumi Yakura

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