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ナオコ・ワオスギ展「パーマカウンターカルチャー」

HAPPENINGText: Fuyumi Saito

デューク・エリントンが生まれた地、ワシントンDC(以下、「DC」)のUストリートはかつてアフリカ系アメリカ人が多く生活するエリアだった。音楽活動も盛んで、1920年代には「ブラック・ブロードウェイ」として知られ、マイルス・デイヴィス、エラ・フィッツジェラルド、そしてルイ・アームストロングを輩出した土地だ。1968年に暴動が起きた後は長きにわたり空き地となったが、ここ最近になり再開発とともに息を吹き返し、レストランや酒場、ミュージックホールなど夜の活気が戻ってきた。

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PermaFlyer, Image by Sarah O’Donoghue, Courtesy of Hamiltonian Gallery

日本で生まれ育った韓国人のアーティスト、ナオコ・ワオスギはDCの隣、メリーランド州ロックビルやDCのスミソニアン・ナショナルポートレートギャラリーでも、アートを通じて現代の社会のコミュニティのあり方を描くアートプロジェクトを発表してきた。ロックビルのアートセンターから展開された「カムバック・トゥ・ロックビル」では、アートセンターで働く人々のポートレート写真の撮影から始まり、写真に写る各者のウェブ上での繋がりを追ってはそれぞれが属する異なるグループの写真を撮り、またその先につながる別のグループで写真を撮り…というグループ・ポートレートの旅を続けた。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーでは「サンキュー・フォー・ティーチング・ミー・イングリッシュ」というタイトルで30点のポートレートを描いた。それぞれのポートレートは彼女に英語を教えたことのある人物が、ある英語の単語、例えば「ファンタスマゴリア」(Phantasmagoria=走馬灯)や「パラライズ」(Paralyze=麻痺させる)「オブヴィアス」(Obvious=明らかな)を発音している様子の写真をもとに表現された。様々なローカルコミュニティ間の対話がナオコによって遊び心を持って創出されている。

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Photo: Naoko Wowsugi, Courtesy of Hamiltonian Gallery

今回、ナオコはアバンギャルド・ジャズ、メインストリーム・ヒップホップ、オルタナティヴ・ロックなどのアーティストの活躍の場となっているUストリートのギャラリーにて、周辺のコミュニティとDCのパンクシーン、そして都市型農業をめぐるユニークなエコシステムをテーマに展示を構成した。展示のタイトルである「パーマカウンターカルチャー」とは、自然のエコシステムを参考に、持続可能な建築や自己維持型の農業システムを取り入れ、社会や暮らしを変化させる総合的デザイン科学「パーマカルチャー」という用語が元になっている。ガレージのような細長いギャラリーには白壁に覆われた温室が設置され、赤紫色の豆電球に縁取られた棚にズラッと緑の小麦若葉の草が植わった鉢が並ぶ。

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Photo: Naoko Wowsugi, Courtesy of Hamiltonian Gallery

展示期間中、そこではオープニングを含め、ローカルのパンクバンドによる3回のミュージック・ライブが開催される。ギャラリー内に響くパンクの音波と、100人超の観衆が踊りながら排出する二酸化炭素。ライブがヒートアップし盛り上がるほど、温室内の小麦若葉はその二酸化炭素をぐんぐん吸収し、そして今度はバンドや観客のために酸素を供給する。育った小麦若葉は青汁になり、ギャラリーは毎週、来場者に栄養満点のショットを提供する、というサイクルだ。ライブの様子は展示期間中、ギャラリー内のモニターで視聴することができる。

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Photo: Farrah Skeiky, Courtesy of Hamiltonian Gallery, Unknown Threat11

パンクカルチャーと小麦若葉が共有し放出しては吸収される熱とエネルギーの図式は、我々の日常生活の中にあるエコシステム「パーマカウンターカルチャー」の利点を静かに照らし出している。展示は、DCコミュニティを包括的に元気にするだけでなく、青汁ショットを提供することで人々の健康にさえも貢献しているというわけだ。

Naoko Wowsugi展「Permacounterculture」
会期:2016年8月13日(土)~9月10日(土)
時間:12:00〜18:00(日・月曜日休廊)
会場:Hamiltonian Gallery
住所:1353 U Street NW, Suite 101, Washington D.C. 20009
TEL:+1 (202) 332-1116
https://www.hamiltoniangallery.com

Text: Fuyumi Saito
Photos: Naoko Wowsugi, Courtesy of Hamiltonian Gallery

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