龍野(たつの)アートプロジェクト 2013

HAPPENINGText: Chiaki Ogura

2013年で3回目の開催となる、龍野(たつの)アートプロジェクト。会場となったのは、江戸城下町の面影の残る一帯、城下町美術館。たつの市は、“播磨の小京都”とも呼ばれているほど、地場産業であった醤油蔵などの文化財が多く残っている。醤油のあまい香りの残るかつての趣きが残った蔵空間で、作品はより引き立つようだった。

招待作家に、さわひらき今村遼佑などを含め、個性豊かな総勢22名の作家が集まった。地元であるたつの市出身のアーティストも多かった。ワークショップやアーティストトーク、ドキュメンタリー映像上映なども開催され盛りだくさんの9日間だ。

龍野アートプロジェクト2013 刻の記憶
「The Fall」ミロスワフ・バウカ, 2001

ポーランド出身のミロスワフ・バウカは、映像インスタレーションを醤油蔵で表現した。砂が下に流れていくにつれて、落ちた砂は山のように積み上がり、砂の重さでつっかえていた気泡は上に登って行く。物事の境界線は曖昧で、時間やその他の要因によってどんどん変化していく。第二次世界大戦にまつわる悲劇の記憶や、当時の人々が受けた傷への想いが作品の中に込められている。注意深く観察することで、信念や真実の痕跡を見つけてほしいという意味も感じられた。

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「発酵≒発光」山口敏郎・薮田翔一, 2013

山口敏郎と薮田翔一は、蔵を女性の子宮と見立てた。高さ約2mの樽が50個並べられた広い暗闇のなかで、鼓動音が360度サラウンドで鳴り響く。色とりどりの電飾で華やぐ400本の花は、卵子との出合いを探している精子を表している。自分自身がまだ母親の子宮の中で、人間という形になる以前の状態を体感させてくれる。作品名は「発酵≒発光」。醤油を作る過程で必要になる発酵する麹菌と、発光する花とを掛けているのもユニークだ。

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「ハイジ53 “echo”」松井智惠, 2013

1980年代から国内外で活躍の場を広げている、松井智惠は、龍野醤油資料館別館蔵を舞台として、この場で自ら制作した。このJ.ジュピリ作「ハイジ」から着想を得たシリーズ 「HEIDI」は、成長した少女が不思議な存在として登場する映像作品である。個人の記憶や風景の間に佇む寓意を探り、見ているうちにどこでもない別の場所に行ってしまうような、不思議な感覚に導かれる作品であった。

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