石倉美萌菜

PEOPLEText: Satsuki Miyanishi

アートに対する様々な思いや葛藤の中、素直な感情を作品に表現しつづける美術家・石倉美萌菜。主に札幌で活動、そして上海のアーティストレジデンス参加を機に活動の幅を広げている彼女の個展がCAI02にて開催される。

石倉美萌菜

力強いタッチで描かれたインパクトのある作品「最強のアピールコスチュームを着て愛の告白をする”わたし”「す」「き」」についてお聞かせ下さい。

この作品は短大の卒業制作で作った作品で、シリーズの2作目です。
最初の動機は、絵がうまくなりたいけれどモデルを雇うお金がないので自分をモデルにして描こうと思ったことでした。19歳の悶々した盛りなのに恋愛において全くネガティブで何の行動もできない私は、その鬱憤を作品にしました。
作品にはもう一つ動機があります。タイトルに「わたし」と入れたのはタイトルを鑑賞者が読むことで、おっぱいにハートだけという到底普段はしない恥ずかしい姿で告白している画中の「わたし」になってしまえ、という「リア充爆発しろ」的精神も盛り込まれています。

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「実用絵画シリーズ フック付き台所用絵画(サンプル)」2009 410×318 油彩、キャンバス、フック

2009年制作の「実用絵画シリーズ」についても教えて下さい。

この作品シリーズは制作の動機が強いものではありません。
きっと作品制作している人なら一度は感じるであろう「私の作品なんて粗大ゴミだ、畜生!」という気持ちに、「アートってすごい!私の作品ってすごい!今に見ていろ!」という気持ちが勝つことができなくて制作した作品です。作品を作る立場なのにアートのことを信じられていないので、作る事を少しためらったのですが、その時にちょうど「くだらない展覧会02」という展示にお呼ばれしたので「こりゃいいや!」と制作、展示に至りました。

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「ポジティブ君」 油彩 361cm×202cm

作品を制作する際に、最も大切にしていることは何ですか?

自分を過大評価しないこと。良い作品をつくれたら正当に良い作品だと評価するのはいいですが、例えば作品がまだアイディア段階の時や、作り始めの時は「私が思いついたことは誰でも思いついている」と考え、自分の事を万が一にも「人より優れている」と思うことが無いようにと思っています。
聞こえは悪いですが「身の丈にあった」といいますか、決して「自分からはみ出さない」ようにしています。冒険しないという意味ではないのですが… 言葉にするのが難しいです。
なんというかはみ出し方が躍進する方向ならいいのですが、思い違いにならないように見極めています。

自分自身を描く作品も多いようですが、作品の着想はどこから得ているのですか?

作品を作る人は自分と対話すると思うのですが、その対話をそのまま作品にするので自画像が多いのだと思います。興味の対象が自分の感情や状況なので、どうしてもこうなってしまいます。興味の対象が別にある時も、その興味の対象と向き合っている自分に興味がわいてしまうので困り物です。「次はどんな自画像をかこうかな」と意識しているのではなく、浮かんでくるアイディアが自画像の事が多いのです。
しかし最近、自画像のアイディアは浮かばなくなってきました。それでも、やはり興味の対象が自分の内面という事が多いです。自分の事ばっかりで嫌になりますがやめられません。

あなたの作品の背景となっている、学生時代見ていたアートとはどのようなものだったのですか?

私の学生時代は予備校と短大、CAIアートスクールに通っていた頃で、短大とCAIアートスクール夜間コースは同時に通っていました。
予備校時代はよく先生に見せてもらっていたのがマティス。アメリカの抽象表現主義あたりの作家やルドン、ニコラドスタールなども大好きでした。
大学は本州の芸術大学を受験したので、そのときは思いっきり具象の試験でしたが、大学に入ったら抽象画を描くんだと決めていました。大学に落ちて、短大とCAIアートスクールに通い始め、アートというのは立体と絵画と、それだけではないとやっと気がつきました。20歳頃に。
もともとミーハーなので若いアーティスト、のびあにきさんや、中山カメラさんなど年齢の近い人たちの活動を知り、ネットで追っかけをしていました。

影響を受けたアーティストはいますか?

浅く狭い知識でお恥ずかしいし、影響を受けたというのもおこがましいのですが、制作の際に良く見るのは会田誠さん、またジェニー・サヴィリーさん、とかルシアン・フロイドさん。ピエール・ボナールさんは真似しようと思って毎回とても失敗します。横尾忠則さんも好きです。人生で一番最初に好きになったのは円山応挙さんです。
あとは予備校生の時に日本の青春パンクと括られるような類のバンドや、他にも様々な日本の音楽を知り、その辺りに物凄い影響を受けていました。

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2010年に上海でのアーティスト・イン・レジデンス事業で創作されたそうですが、ご自身の中で変化はありましたか?

出発が初めて個展を行った3か月後で、しかも初めての海外だったので大きな変化となりました。生まれて初めてアーティストとして扱われて、とても緊張しました。英語も中国語も話せないので日本人スタッフ以外とはコミュニケーションをなかなか取れないし、もともとコミュニケーションが苦手なのでひいひい言っていました。
札幌での初個展でさえ、開催する前には精神的におかしくなりそうだったのに、この先もしも仕事をもらって制作や展示を行うことになったら私はどうなってしまうのか。こんな精神では絶対無理だと思い「今のうちにアートなんてやめてしまおうか」と思い煩っている最中の渡航でしたので、悩むことも多かったです。そんな中、なんとか作品を作ることができたので、その経験が今の自分を奮い立たせることが多いです。
また、アートマーケットの存在を実感する良い機会となりました。日本ではあまりそういった体験がなく、アートマーケットというのが竜宮城みたいなものだったので、オークション会場やギャラリー・スタジオが大きな空間を所有し、それらが集合して売る気まんまんの様子をみると今まで自分の作っていたものって何なのだろうという気持ちにもなりました。

今回のCAI02企画展である個展「さぁこの先どうしよっか」のテーマについてお伺いできますか?

今回の個展のお話をいただいた時もやはり続けるか否かということを考えている最中でした。そんな中、東日本大震災が起きて、以前からの自分の悩みなのか、震災の衝撃の為なのかわからない不安と恐怖によって情けない事にさらに制作ができなくなってしまいました。さらに絵が下手になり、作品を作るのを一生やめてしまおうかと悩みました。辞めたらどうするんだ、この先死ぬまで何をしたらよいのか、とさらなる不安に駆られ、呆然とした状態のときに浮かんできた「この先どうしよう」というこの言葉に少し未来への希望が見える気がしてこのタイトルにしました。少し前の自分への落とし前をつけてこの先へ少しでも前進したいとあがいている展示です。この先の未来は残念ながら積極的に提示はできませんでした。しかし前に進む足がかりはできたように思います。石倉美萌菜に喝を入れたくなるかもしれないし、同じ世代の方はもしかすると共感できるかもしれません。

作品とともにあなた自身も成長を続けていると思いますが、今後ご自分がどのようになっていきたいと思っていますか?

先日妹の夢枕に亡くなった祖父が立ち、私に向けて「下の方でやるだけだったらそれなりにいいところまで行けてアート以外のことも楽しむことはできるけど、上を目指すと辛い」と言ったそうです。スピリチュアルなことは信じていないのですが、それだけは何となく信じてしまってその事を聞いて凹みました。しかし、どうにか辛い目にあえるところの入口だけでも見てみたいと思っています。現代っ子らしく辛いのは嫌いですが。
また一生の目標ですが聡明な人になりたいです。アーティストとしてもちろん食べていけるようになるというのが目標ですが、そんなことまだまだ言えるような立場ではないので「自分アートで食って生きたいんだ!」ということが堂々と言えるようになるのが目下の目標です。あと今の100倍アートが好きになりたいです。

石倉美萌菜個展「さぁ この先どうしよっか」
会期:2012年10月6日~27日
時間:13:00~23:00(日曜祝日休廊)
会場:CAI02
住所:札幌市中央区大通西5丁目昭和ビルB2
TEL:011-802-6438
主催:CAI現代芸術研究所
http://www.cai-net.jp

Text: Satsuki Miyanishi

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