ミラノ・サローネ 2012
HAPPENINGText: Wakana Kawahito
街全体がデザイン一色に! デザインの領域は益々広がる。
世界最大の国際家具の見本市/デザインの祭典である、ミラノ・サローネ 2012が、2012年4月17日〜22日まで、イタリア・ミラノ市内にて開催された。サローネは、プロフェッショナル向けのメイン会場であるフィエラと、市内に点在するフォーリサローネの2つの会場から成る。
この1週間は、たくさんのイベントが開かれ、世界中からデザイン関係者が集まり、街全体がデザイン一色となる。憧れの有名デザイナーが目の前に!なんてこともしょっちゅう。
フィエラ会場
フィエラ会場は、約20万平米の敷地に計2500ブランドのブースが並び、実際的な商談の場となっている。今年も世界160カ国から30万人以上の来場者を迎え、その内、イタリア国外からの参加者は6割にも上る。会場は、デザイン、キッチン、バス&トイレ、そして若手デザイナーの発表の場であるサローネサテライトに分けられている。
全体的なトレンドとしては、素材本来の特徴や利点を活かしたデザインのものに注目が集まった。
riva1920のブース
たとえば、「リーヴァ」は得意な木材のクオリティをアピールするために、木でつくったデモンストレーション用の車を展示。多くの観客が、技術の確かさと滑らかな触感に感嘆の声をあげていた。
“BENT GLASS BENCH”, Design: Naoto Fukasawa
素材の中でも、特に“軽さ”への注目は高い。軽い素材は扱いやすく、輸送コストの面からも環境の面からも利点があるということで、関心を集めている。たとえば、 深澤直人デザインによる超軽量化されたクリスタルガラス製の「Bent Glass Bench」などはその一例だ。
また、ノスタルジーも今回のキーワード。過去に流行ったスタイルのリバイバルやデザイナーへのオマージュ作品など、デザイン回顧の傾向が見られる。
ル・コルビュジエへのオマージュ作品である、 ドシ・レヴィンによる「モローゾ」のチャンディーガルソファ、そして、スウェーデンのデザイントリオ、 クレソン・コイヴィスト・ルネによる、タッキーニのアームチェア「イゾラ」は、ミッドセンチュリーの影響を感じさせる。
加えて、今期の色のトレンドは間違いなく「青」だ。スモーキーブルーを中心に、多くのブランドが青をメインカラーとしていた。
FTK (Technology For the Kitchen)
FTK (Technology For the Kitchen) のエリアでは、最新のキッチン事情を知る事ができる。国際的な家電メーカーを中心に計30ブランドが参加し、未来の台所の風景を予見させた。
一昔前はIHキッチンがハイテクキッチンの代名詞であったが、それはさらに進化し、シーメンスからは、調理器具の形と置いた場所に反応する、超ハイテクIHキッチンもショーケースに並んだ。
若手デザイナーの登竜門である、サローネサテライトでは、 新鮮なアイディアを持った若手の作品を見ることができる。なかでも特に、ドイツのデザイナーに勢いがあるように感じた。
ドッツ・デザイン・スタジオ
たとえば、 エリザベス・フロアシュテットの「The Second Telling」は、棒状の木を組み合わせて作られているダイニングテーブルだが、木と木の隙間を調節できる。最小で48cm、最大では190cmにも広がり、スペースに合わせて扇形や弓状など、形が変化する。やや荒削りな部分もあるが、シンプルな構造と素材を活かした機能性に優れたテーブルだ。
また、ポップな色使いに異なる素材のミックス加減が上手いブランドが多い印象を受けた。たとえば、日本人デザイナー、HIROOMI TAHARAの紐を使った壁収納や、デザインユニット「WOW」の作品、 「ドッツ・デザイン・スタジオ」のイス、 Bao-Nghi Droste Designのテーブルなどだ。
「INTERNI LEGACY」の展示があったミラノ大学の会場
市内会場であるフォーリサローネでも、さまざまなイベントや展示が開催されていた。
ミラノ大学を会場とした「INTERNI LEGACY」は、パナソニックやミッソーニを始めとした大手ブランドなどが、学校の広い敷地内を使い、迫力のある展示を行った。テーマがサスティナブルな社会、未来への提案、だったためか、多くのブランドや企業が光に関連した、LEDを使ったデザインを提案していた。
Panasonic booth, Design: Akihisa Hirata
「光合成」をコンセプトとしたパナソニックは、今注目の建築家・平田晃久による会場構成で、葉に見立てた太陽光パネルのオブジェを中庭のスペースで展開した。
“Fall in Pop” for NEOREAL IN THE FOREST by mint designs and Nobuhiro Shimura
また、多くのデザインイベントが行われていたトルトーナ地区で最も目立っていた「Temporary Museum for New Design 2012」。キヤノンによる「NEOREAL IN THE FOREST」は、建築家の中村竜治とアーティストの志村信裕がコラボレーションした 「Spring」と、 ファッションデザイナーのミントデザインズと志村信裕による 「Fall in Pop」を展示。繊細な映像の世界に、たくさんの観客が見入っていた。
マテッオ・ゾルゼノニ
また地下は、若手デザイナーによる発表のスペースとなっていた。イタリア人デザイナー、 マテッオ・ゾルゼノニによる、ガラスと他素材を組み合わせた花器やランプは、造形のユニークさと素材の絶妙なバランスが面白い。
メキシコのブランド「イエルベ」はワードローブ「ロペロ」を展示。上部と下部の2つのパートから構成されており、それぞれ2〜3つのバリエーションがあるため、ニーズに合わせて、自由に組み合わせることができる。蛍光色がポップで軽やかな印象を与える家具だ。
「Temporary Museum for New Design 2012」で、特に印象的だったのは、原研哉がデザインした、INAXの「Foam spa」。カプチーノのようなクリーミィな泡は、肌への負担が少ないため、長時間ゆったりと“泡”に浸かれるそう。また、泡が蓋となるため、お湯が冷めにくく、湯気が立ちにくいので、入浴しながら本が読め、さらにはリビングでの入浴も可能、と謳う。
INAX “Foam spa”, Design: Kenya Hara
これは入浴文化が発達している日本ならではの発想だろう。デザインによる新しいライフスタイルの提案はどのようにイタリアで受け入れられたのだろうか、大変興味深い。
インテリアショップが集まるブレラ地区では、フィエラ会場にも出店しているブランドが、お店をもう一つの会場とし、展示を行った。
Ron Gilad Exhibition
なかでも賑わっていたのが、「DILMOS」で開催されていた、最近若手で最も勢いのあるニューヨーク在住のデザイナー、ロン・ギラドの展覧会だ。シンプルだが、エレガントさと奇妙さを併せ持つ彼の作品に、多くの人が注目していた。
“module H”, Design: Shigeru Ban
また、建築家・坂茂がエルメスのためにデザインした 、パーテーションシステム「module H」も披露された。
最近は、家具だけではなく、デジタル家電やファッション、車、インスタレーションなども含めた、総合的なデザインを発表する場としての役割が大きくなってきたミラノサローネ。今後、市内会場(フォーリサローネ)のイベントはさらに増えていくことだろう。
ミラノ・サローネ 2012
会期:2012年4月17日〜22日(※フィエラ会場は4月22日のみ一般公開)
会場:フィエラ・ミラノ、ミラノ市内全域
Text: Wakana Kawahito
Photos: Wakana Kawahito