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瀬戸内国際芸術祭 2010

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

最後に訪れたのは、小豆島である。
小豆島は、高松、そして先に美術で開発された直島、その向こうにある本州岡山県への導線から外れているため、観覧者の鑑賞コースから外れがちの島である。この多島海である瀬戸内海においても、二番目に大きいこの島の内陸部で作品群が展開されていた。

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この島の芸術祭ボランティアは気さくでテンションが高い。『パスポートチケットには必ず名前を書いてください、無くされたらそれで確認できますので』面倒くさがりというか、名前をぶらさげることに恥ずかしさを感じる私であるが、各場所でおじちゃんおばちゃんに口ぐちに言われてしまう。そんなおじちゃんおばちゃんたちの受付の後ろには、日々書き加えられて行くイラストマップが。途中の経路でサルが出没し、からんでくる…ということもイラスト化。とにかくおもてなしがアツいのだ。

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作品が点在するこの地域は日本古来のランドスケープである棚田が展開している。稲の収穫を終え、田圃には様々な稲で作った巨大な生き物が作品として展開されている。これらの稲の生きものこそ、芸術祭期間中に最後に完成した「作品」である。決して、有名な作家が作ったわけではない、武蔵野美術大学の学生と地域の人々が作り上げたこの「作品」が棚田の風景の相まって、沢山の人たちを楽しい気分にさせてくれていた。

村人のテンションの高さは、その風景の中にヒントがあった。田んぼの向こうに、昔作られた舞台が存在する。この村の人々は、昔から歌舞伎を舞い、楽しむ文化を持っていた。もちろん、演じるからには、外からの人々がそれを見に来ることを歓迎する気風があった。この芸術祭は、この微笑ましいボランティアたちにとって、新たな芸術祭なのである。

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旧米工場を舞台にした河口龍夫の「心の巨人」。年季ある建物に向かってオブジェが飛翔し、建物の主である「何か」へと向かう作品。年季とともに、何かが棲みつく、そんな歴史と風土への憧憬が昇華した、居続けたくなる空間があった。

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居続けたくなる空間。最後に触れたいのは、谷間に現れた巨大なドームの竹の家、王文士による「小豆島の家」だ。全てが竹で作られたドームの中。隙間から心地よい風と光が漏れる。その心地よさに、ほとんど全ての鑑賞者は裸足で上がり込み、ときに寝ころび、至福のひとときを過ごす。その居続けたくなる空間こそ、鑑賞だけではない、風土とともに体感するこの芸術祭の神髄ともいえる景色ということができるであろう。

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一番最後に、テンションの高かった受付が配された小学校の中の図書館で展開された作品に触れて終わりにしたい。栗田宏一の「土と生命の図書館」である。この作品は瀬戸内各地の土を集め、その色の織り成しを見せる作品。まさに風土そのものである土が見せる色の表情をかたちにした作品だ。多彩な風土を反映させる美術作品が、島々に有名無名千差万別展開する芸術祭。アートが風土を照らし合わせ、新たな風土を作る。日々の生活であえて忘れ去ってきた風土を呼び起こす芸術祭。その風土が凝縮された作品だった。

忘れ去ってきた風土。廃校の図書室は今でもきれいに残されている。村の篤志家が、寄贈した本など、人をつくる知識を大事にする、少し前の日本の景色がそのまま残っている。そこで子ども向けの歴史教本を手にする。最後は戦後の日本の復興で終わる教本。家族で経営する零細企業が世界に輸出できる商品を作るまでの苦労が書かれていた。そして、そんな世の中のため、そして戦争の苦難の後に豊かさを得るためにはたらく、小さな工場こそ新しい日本の象徴であると。

この芸術祭は地域に配された作品だけでなく、まさに瀬戸内という地域に存在する風土と私たちをつなぐプロジェクトであったのである。

今回の記事では、瀬戸内国際芸術祭のハイライトとされている、直島、犬島には、触れなかった。両島で展開されている、アートプロジェクトは、芸術祭において特別に展開されているものでなく、会期の終わった現在こそ、平常を取り戻し、より一層深く鑑賞できるものになっている。

このように、芸術祭が終わっても、この瀬戸内の島々をフィールドに様々な作品が展開している。アートと風土が触発しあう、絶景続く田舎への旅。いかがだろうか。

瀬戸内国際芸術祭 2010
開期:2010年7月19日〜10月31日
会場:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺
主催:瀬戸内国際芸術祭実行委員会
総合プロデューサー: 福武總一郎(財団法人 直島福武美術館財団理事長)
総合ディレクター: 北川フラム(アートディレクター)
https://setouchi-artfest.jp

Text: Tomohiro Okada
Photos: Tomohiro Okada

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