中谷芙二子+高谷史郎「CLOUD FOREST」

HAPPENINGText: Wakana Kawahito

ある時は、目の前の視界が急に白くなって隣の人の姿がまったく見えず、一人霧の中に迷い込んでしまったかのようになり、ある時は、霧の中に数筋の光が差し込み、それが反射することで幻想的な情景が広がる。そして、ある時は、上半分は霧がまったくないクリアな状態で、下には霧が溜まっているという水墨画のような様子になる。

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中谷芙二子+高谷史郎「CLOUD FOREST – Foyer」

ホワイエで展示されている「CLOUD FOREST – Foyer」は、人が立っている位置と距離に反応して、流れる音のスピード、方向や内容が変わる超指向性スピーカーを用いたサウンドシステムを、等間隔に設置した作品。ディヴィッド・チュードアの環境の反応によるサウンドスケープの発想からインスピレーションを受け、9台の音響装置と鏡のようになった床面が、反響、反射して、音と光の複雑なコンビネーションを生み出している。山口をはじめとする様々な場所で収録されたフィールド音と館内の別の場所からのリアルタイムのノイズ音を音源として用いることで、自然環境と人工環境をミックスした。そこでは、普段は意識していない音の重なりや音と音の空間を感じることができる。さらに、その場所に長くいると、今まで聞こえてこなかった音が徐々に聞こえてきて、まるで音の森にいるような感覚になっていく。

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中谷芙二子+高谷史郎「CLOUD FOREST– Fog Installation #47784」

YCAM正面の中央公園の広大なスペースで展開されている「CLOUD FOREST – Fog Installation #47784」は、中谷芙二子の「霧の彫刻」に、高谷史郎による構造設計が加わり、中庭の作品とはまた異なったスケールで、風力や風向の変化に合わせて、霧の放出方向や量などが調整される。つまり、偶発的な要素を取り込み、環境と融合しながら、常にダイナミックに変化していくことで新しい表現を作り出しているのだ。そこでは、見慣れた公園の風景が、一瞬にして別の様相を呈し、目の前に存在する情景や町並みでさえも、作品の一部となる。

霧、光、音、水滴、風によって、視覚、聴覚、触覚、嗅覚が刺激され、普段意識していない感覚や不可視な世界へのアプローチが可能となる。
「CLOUD FOREST」を実際に体験することで、アートと情報と環境の新しい関係性について感じて欲しい。

中谷芙二子+高谷史郎「CLOUD FOREST」
会期:2010年8月7日(土)〜10月17日(日)
時間:10:00〜19:00(中央公園 17:00まで)
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)
会場:山口情報芸術センター[YCAM]
料金:入場無料
https://www.ycam.jp

Text: Wakana Kawahito
Photos: Ryuichi Maruo Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

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