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トランスメディアーレ 2010

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

反対にアワードにはならなかったものの、とても印象に残った会場外の展示やパフォーマンスもあった。クラブトランスメディアーレ、トランスメディアーレの中から、個人的に興味を惹かれた展示とパフォーマンスをひとつづつ紹介し本稿の結びとしたい。

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Coincidence Engines – [The User]

トーマス・マッキントッシュとエマニュエル・マダンによるグループ[The User]はハンガリーの現代音楽化リゲティ・ジェルジの「100台のメトロノームのためのポエム・サンフォニック」にオマージュをささげた「coincidence engine」を展示した。作品は二室で構成されており、一つ目の部屋には、発泡スチロールでできたスタジアムの様な形をした台に無数のアナログ時計が並べられていた。台の中心まで足を進めるにつれ、それまでざわざわとざわめきの様に聞こえていた雑音が時計一つ一つの秒針の動きの音として聞こえ出す。時計にはそれぞれ個体差があり、それらが微妙なずれを生み出して予期不可能なリズムを刻んでいるのだ。インスタレーションの中心に立ち、ぐるりとまわりを時計に取り囲まれると、あたかも多くの人々が一心不乱に同じことに没頭している風景を見ているかのようだった。

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二つ目の部屋には、アナログ時計を使用したユニットを12×8のグリッド状に並べられたインスタレーションが展示されていた。ユニットの中心に配置された時計はその秒針が進む毎に音が拡声器で拾われコツコツという音を出し、またそれに伴い白くLEDが点滅する。これらがグリッド状に並び、それぞれの秒針の進み具合が少しずつずれてゆき、シンコペーションのリズムを刻んだり、時としてそろって秒を刻んだり、偶然の中にも楽曲としてコンポジションが存在するかの様で、時間を忘れてその音と光が奏でるリズムに没頭することができた。

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ARCHITONE – YOKOMONO PRO

会場である戦勝記念塔の側には、極寒にもかかわらずいつもより多くの人がパフォーマンスが始まるのを待っていた。開始時間から5分ほど過ぎた時、赤と白の旗を掲げた車が数台北から入り戦勝記念塔の周囲のロータリーを抜け、東の方に消えて行った。この数台の車はクラクションを軽快に鳴らし、ポーランドがサッカーの試合に勝ったのを祝っているかのようだった。しばらくした後、青と白の旗を掲げた数台の車がクラクションを鳴らしながら走り抜け、それに続いて緑と城の旗を掲げた車も数台通過した。その時に漸く、彼らは熱狂的なサッカーファンなのではなく、これがパフォーマンスなのだ、という事に気が付いた。その後、断続的に赤・青・緑の旗を掲げた車がクラクションを鳴らして通り過ぎて行く。
注意深く聞いてみると、その車のクラクションは、ずれることなく機械的に鳴っており、ドライバーはクラクションに手を触れていなかった。おそらく何処かで遠隔操作をしクラクションを鳴らしていたようだった。
その様に右から、左から、遠くから近くへとクラクションの音があちこちから聞こえる様は、ちょっとしたミニマル・ミュージックだった。そうこうしているうちに、同じくクラクションを鳴らしながら走りすぎる車が現れ、消防車が走り過ぎ、結婚式の車がけたたましい音でクラクションを鳴らしながら走る。予定外の出来事までが一連のコンポジションの中に内包されて行くようだった。

トランスメディアーレ 2010
会期:2010年2月2日〜7日
会場:ベルリン市内
https://www.transmediale.de

Text: Yoshito Maeoka
Photos: Yoshito Maeoka

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