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「20世紀少年」

THINGSText: Tatsuhiko Akutsu

映画「20世紀少年」。幼い頃に仲間と原っぱの秘密基地で描いた空想。「よげんの書」の中に描かれたのは、悪の組織が細菌兵器を用いて世界征服を目論むというストーリー。彼らが大人になった時、その空想を実現しようとする「ともだち」の存在が明らかになる。「よげんの書」に記した数々の事件が現実になっていく中での、地球滅亡を目論むともだち教団と原っぱのメンバーたちの闘いの序章。

20世紀少年
© 1999,2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館 © 2008 映画「20世紀少年」製作委員会

原作は「MONSTER」や「YAWARA!」そして現在連載中の「PLUTO」などで知られる今や漫画界のスーパースター・浦沢直樹。そして、監督は独特のカメラワークと映像美で数々の映画を手掛ける堤幸彦。原作に無数に散りばめられた伏線、物語の複雑さから映像化不可能と言われ続けた作品を、豪華キャストを引き連れた彼が、どう料理するのか。壮大なSF3部作の幕開けである。

20世紀少年
© 1999,2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館 © 2008 映画「20世紀少年」製作委員会

サイエンス・フィクションと呼ばれる類いの作品は、概して時代の風潮、文化、政治的背景を映じ、歴史の系譜を受け継ぎ、それを通して時代の行く末を「予言」するものである。これまでのSF作品を見てみると、19世紀末H.G.ウェルズが当時の社会情勢への批判を暗示した『宇宙戦争』において、圧倒的な力で地球に侵略を開始する火星人を描いた頃から、彼が築いたこのSFお決まりのスタイルはある程度現代まで継承されていると言える。当時の彼は、現代のインターネットの利用形態を1800年代前半には、すでに予言していた。しかし、当時のアメリカでそんなリアリティのない言説を一体誰が信じただろう。

20世紀少年
© 1999,2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館 © 2008 映画「20世紀少年」製作委員会

「ともだち」は単なるSF上の架空の人間なのだろうか。ウェルズが、かつては現実味を帯びない絵空事と考えられていたこの現実社会を予言したように、皮肉にもSF作家の予言は案外当たるのかもしれない。「よげんの書」が、実際の世界で起こりうる現実を予言していると考えるのは、何も向こう見ずなことではない。90年代のオウム事件をきっかけに、カルト的に大衆の支持を得る寸前までに至った人間は少なからず存在する。この日本では、「ともだち」だって何時現れてもおかしくない。この映画自体が、日本の未来の「よげんの書」になりうるフィールドが、ここ日本の陰には存在しているのかもしれない。

1969年、原っぱのメンバーは自転車を乗り回し、ラジオから流れるロックに熱中する。日本は昭和の高度経済成長期の真っただ中、翌年の大阪万博への期待で溢れかえっていた。そんな素晴らしき未来に期待を膨らませ、ケンヂたちが描いたユートピア。その「予言された理想郷」は現代において実現されたのかもしれない。動く歩道、ファミレス、リニアモーターカー、携帯などなど。人は、過去を改変し未来に期待を膨らませる生き物。しかし、「ともだち」はあえて過去の「よげんの書」の緻密な再演を試みる素直さをもって、人類を滅亡させようと企てる。原っぱのメンバーが「ともだち」に抱く恐怖というのは、つまりはその素直さなのかもしれない。ピュアだから恐ろしいのだ。

三部作の一作目の今回は、アクションやCGといった派手な演出は控えめで、むしろ「ともだち」という存在、そしてそれを取り巻く数々のバックグラウンドなどの物語の設定の部分が主要になっている。複数にはられた伏線、そして(決して物語の中心ではないのにもかかわらずやはり気になってしまう)「ともだち」は誰?という疑問の回収は、二章以降におあずけだ。エンドロールの後の予告編をお見逃し無く。

映画「20世紀少年」
監督:堤幸彦
原作:浦沢直樹(「20世紀少年」小学館ビッグスピリッツコミックス刊)
出演:唐沢寿明、豊川悦司、常磐貴子ほか
企画:長崎尚志(スタジオビー)
制作プロダクション:シネバザール、オフィスクレッシェンド
配給:東宝、日本テレビ開局55年記念作品
© 1999,2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館
© 2008 映画「20世紀少年」製作委員会
http://www.20thboys.com

Text: Tatsuhiko Akutsu

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