パリ・ファッション・ウィーク 2008

HAPPENING

パリコレへの道はあなたの推測を遥かに超える程に険しい。

パリ・ファッション・ウィーク 2008デザイナーはその選ばれし90のメゾンの一つになるために、日々の精進で脳みそをブラックホールにしなければいけない。モデル達は、あなたが一日とでさえ耐えられないであろうケーキとの決別を、デザイナークローズに誓わさせられる。そしてそこに行くべき人も、数々の過酷な試練を生き抜ける者の中から、ふるいにかけられるのだ。水たまりの上を通った車に、頭から水をかけられてもびくともしない根性を持っているかを確かめる事を、プリントアウトしたはずのチケットが片道だけということに一人寂しくなっているときに、財布の中には3枚の小さな硬貨のみで絶体絶命のピンチに追い込まれても笑顔でなんとか乗り越えられるガッツがある事、私を待っていてくれる唯一のファッションショーのインビテーションを信じてパリまで行ったのに、たよりのそれはどこかに消えていた。時の迅速で適切な行動力を通して。

そして、何事もうまく行かないと、パリから程近いあの夢の王国へ逃亡してしまった人からは、見放されてしまう。こうした険しい道を乗り越えてやってきた特別な人による特別な人のためのショーが特別でないわけがないのだから。きっとあなたが人生で目にした最も美しいもの。それが、パリ・ファッション・ウィーク


パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
Photo: Shoji Fujii © Photos Courtesy of Gaspard Yurkievich

私と名前がそっくりで、小さい頃に大好きだったあの物語に出てくる女の子みたいに、災難がたっぷりの不思議な国で白いせっかちなウサギを追いかけ、好奇心たっぷりに向かった先は、この冒険を続けるのにふさわしい本をそっくりそのまま描いたギャスパー・ユルケビッチの世界。コレクションのテーマである「ザ・ビューティフル・フォール」は、1970年代のパリを描いたアリーシャ・ドレークの本のタイトルからそのまま取られた。巨大化したプルタブ達はバイオレットが奇麗なドレスの上で、パンツのポケットや背中、腕の中間そして首周りまでもを這う黄色のジッパー共にそれはまるでパンジーの花のようにゆさゆさと揺れる。柔らかなシースルーの生地を這う、サーペンタインラインにはフリルがあしらわれてよりいっそう上品に。そこに、カメリアの花が咲き誇るタイツと黒とゴールドのストライプが、ヒールのグラマラスシューズを合わせて。彼女の描いたシックなパリジャンは、ギャスパー・ユルケビッチの手によってゴールドのフロアが眩しいその会場をよりいっそう眩しく輝かせた。そう、「全ては黄金の昼下がりに…」。あら、どこかで聞いた事のあるフレーズ!

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of Robert Normand

ファッションウィークで、誰に会って嬉しかった?と聞いてみてほしい。意外な答えが返ってくるだろう。バックステージで自分の創造物を見ているデザイナー、努力をし私の前を颯爽と歩くモデル、憧れ続けたに違いない大きな満員の会場で始めの音を奏でなければいけない彼らや、夢を叶えて最前列で足を組んで座るあのライターたちも、きっと同じ答えを見つけるはずである。ファッションウィークを飛び回る、彼のようになりたいと思い続けた憧れのその人を我武者羅に追いかけて、手の届かない存在だった彼のすぐ隣に座っている自分を見つけたときに気づかされる。セレブよりも誰よりも、成長した自分に会えた事が嬉しいのだという事に。そんないろいろな人の思いが私の頭の中を行き交ったのは、スレンダーとグラフィックが、ネオクラシシズムとモダニティが、ジャージーとウールが、クリスタルと色が錯綜するロベール・ノルマンのショーのせいに違いない。

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© Photos Courtesy of Marithe Francois Girbaud

2008/2009 AW、そんな数字を見るだけでスペーシーな気分に浸っているようじゃあなたはまだまだね。あのメゾンが送ってくれた銀色の招待状を持っていれば、重い宇宙服なんて着なくても、呼吸困難にも陥る事なく宇宙を旅する事を可能にしてくれる。こうして私が訪れたマリテ・フランソワ・ジルボーのショーは本物の宇宙を映し出したかのような、フロア一面が常に変化するデジタルライティングで人々を魅了した。あなたがスタートレックファンならそれは涎ものの、そうではなかったとしても、服のあちこちに星が輝き、重力でいう事を聞かない変形パンツに、あぁあそこでニットが絡まっちゃった!そんな宇宙空間では、心までもが浮遊する。そんなに軽いワンピースを着たのなら、宙に飛んでしまわないよう、重たいブーツでしっかりしめて。

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of ZUCCa

ルーブル美術館の川を挟んで向かいにある、アートスクールで行われたZUCCaのショー。学校は迷路だわ、そう私を助けてくれた学生の言葉通り、真っ先についたのは、ファッションショーの入り口ではなく、バックステージへの入り口だった。そこでタバコを吸って一服しているモデル達に入り口を聞く意外に方法はない。しかし、ここまで30メートル毎に人に道案内を訪ねた私でも聞くのが恐ろしくなり、石のように固くなった。パリまで来てロンドンのカムデンに逆戻りしてしまったかのようなロッカー達がそこにいるからだ。何十本ものダッカールを、頭に刺してできたピンクに黄色なモヒカン頭が強烈で、鎖のネックレスにグランジ臭がぷんぷんの、ネルシャツにルーズの限度を知らないブーツを履いた男の子。捩れたオーバーサイズのセーターと、てかてかに光る新素材で目をくらませたなら、頭からかぶったポンチョから顔を出してこちらを見ている女の子。恐る恐る勇気を出して聞いてみたら、なんとも拍子抜けする程に優しい子達だったのだ。後にどこからか風の噂で聞いた事、人間を石に変えてしまうパワーを持ったメデューサにインスパイアされたこのコレクションは、強く見える人ほど優しい心をもっているという事を意味している。少なくとも私にはその事が十分に伝わったのだった。

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of AKRIS

グレーで統一されたアクリスの会場は洗練した雰囲気を醸し出す。一ミリのずれも許さないといったように並べてあるパンフレットを開けると、スケッチ画と小さな布のサンプル、それに出演モデル全ての名前、何を身につけているかが事細かに記されているのだ。イエケリーヌ・スタンジェやイリナ・クルコヴァなどといったスーパーモデルの面々が、柔らかく体を包み込むすらりとした縦のラインを強調したキャメルにメープル、そしてチェストナッツなどの落ち着いた色のスェードのチュニックや、シルクのドレス、フランネルパンツであなたの前を颯爽と駆け抜ける。努力しなくても着るだけで美しく見える服作りが出来るのは、数々のメゾンの中でもアクリスにしかできない事だという印象を強く受けた。それは彼らのショーの前日にくださった電話に加え、ショーの後の丁寧なメール。それに、なんといっても全席に置かれているスイスチョコレートの温かな心遣いが物語っている。

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of TOTEM

ショーの終わりに、粋なちゃきちゃきの江戸っ子みたいに日本の消防服を着こなして、てゃんでぃとばかりに出て来たベルンハルト・ウィルヘルム。それはゴシック要素がたっぷりでありながら、どこか日本の匂いを感じられずにはいられないショーだった。幼い頃に親の陰に隠れて怖がりながら見た節分の鬼のダンスを、あの時にカムバックして見ている気分。会場を円で囲んで座ったなら、あの時と同じく上にはタロイモやドリアンがついた棒を持って、猫顔のゴブリン達がゆっくりとこちらへ歩いてくる。セーラーの襟みたいに黒のドレスの淵を赤のラインが走り、どこかの野球球団のユニホームと間違えそうな黒と黄色のストライプのつなぎ。黒と白それに赤黄青を加えてストライプを作り出したなら、モデル達が木の間をすり抜けて棒で地面を二回叩いて、あなたの目を上下左右に動かすように歩き回る。「I CANNOT HEAR YOU, I CANNOT HEAR YOU」、そんな頭にいつまでもリンクして離れないミュージックは今までのファッションショーの常識に耳をふさぎ新たなショーを見せてくれた、ベルンハルト・ウィルヘルムのメッセージにも受けて取れた。

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of TSUMORI CHISATO

大好きな彼女の服に身を包み、その手に持つバッグのポルカドットの一つのように、どこも咎める所のない穏やかな喧嘩をする事をしらないような女の子が、セキュリティーの前に並んでいて、天と地くらいに違うのでおかしくなってしまう。お人形さんの形をしたインビテーションに息を吹き込んで引き連れて行かなきゃ入れないのよ、そんな風にどこまでもかわいさに満ち溢れる彼女のショーでは、パンフレットが見当たらないと思ったら、キャットウォークのシートの下に隠されていて、取られた瞬間にメッカのお祈りのように前のめりになって見つめた先には「LOVE, OH I AM TALKING ABOUT WHAT? AITO KIBOU OMOSHIROI I LOVE ME…」と書いてあった。クラッシックと軽快なリズムがリミックスされた、ポップでありながら壮大なミュージックとともにアーチの中から出て来たのは、ルーブルに来たのに時間がなくてできなかった美術館巡りを可能にしてくれるような美しい空を描いた、そしてブラシの荒々しさまでもが伝わってくる歩く絵画。そしてなんといっても、オーロラのようなグラデーションタイツが悲しみを取り除いてくれる。最後に黒髪を靡かせながらひょこりと顔を出した彼女が誰だか言わなくてももうわかるでしょう?「I LOVE ME, TSUMORI CHISATO

パリ・ファッション・ウィーク 2008パリ・ファッション・ウィーク 2008
© Photos Courtesy of Alena Akhmadullina

最後を締めくくるのに相応しかったのは、毎シーズン一風変わったスタイルを提案してくれるロシアからやって来たアレナ・アフマドゥリーナのショー。今シーズン、キャットウォークを歩くのはモデルではなくニワトリ!?羽が全身にプリントされたドレスに、とさかの髪飾り。チキンの着ぐるみを着て歩いているような、肩がふっくらした今にも飛んでいってしまいそうなそのものの圧巻の毛皮のコート、腰をリボンのベルトで巻いたなら地面へ向かって垂れ下り、残りの部分だってニワトリの足に。そしてシューズだってニワトリ歩きを可能にしてくれる。それでいてちっとも馬鹿げていないのだ。フェロモンさえ感じる。今年の冬はニワトリになってみない?

冬が待ちきれない。そして次のファッションショーも待ちきれない。

Paris Fashion Week 2008
日程:2008年2月23日〜3月2日
会場:パリ市内
http://www.modeaparis.com

Text: Arisa Kobayashi

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