「ディス・ランド・イズ・マイ・ランド」展

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

ベルリンに来た頃から漠然と感じていた事だが、ここヨーロッパでは、あたかも国というものが存在しないかのごとく、比較的自由に国境の上を行き来する人が多い印象があった。この印象を善くも悪くも裏付けてくれたのが今回紹介する展覧会「This Land Is My Land」だった。

この展覧会には、絵画でもなく、彫刻でもなく、ドキュメンタリーフィルムでもない何かが現代アートとして、そこに横たわっているかのような印象を持った。


Thomas Locher

展覧会場の入り口の壁左手には、トーマス・ロシャーの作品となる、ドイツ基本法(日本国憲法にあたる)に於ける人権の定義が書かれている。そしてその横にはおおよそ7〜8倍の量の注釈が並ぶ。しかも、ひとつの言葉につき2、3個の註が書かれているものまである。それはあたかも異なる時代の視点が異なる解釈をするように、この基本法、つまり人権が流動的であることを示唆しているようである。


Florian Wüst

その正面には戦後ドイツの歴史を彩る様々な出来事が素描されていた。例えば、緑の党が東ドイツを訪れた際の会見の模様や、1981年に行われた30万人を超えた参加者のいた軍備補強反対のデモンストレーション、90年のキリスト教民主党(CDU)選挙キャンペーンの模様などである。それらは決して歴史に残る大事件として扱われる事は無かったが、多様な視点から歴史を振り返った際、どこかで誰かが語るであろう意味深い出来事に違いない。そのようなフローリアン・ヴュストの作品から大文字の “歴史” から離れたどのような視点を持つかを問うような提言を読み取った。

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