ディス・ランド・イズ・マイ・ランド

HAPPENING


ベルリンに来た頃から漠然と感じていた事だが、ここヨーロッパでは、あたかも国というものが存在しないかのごとく、比較的自由に国境の上を行き来する人が多い印象があった。この印象を善くも悪くも裏付けてくれたのが今回紹介する展覧会「This land is my land」だった。

この展覧会には、絵画でもなく、彫刻でもなく、ドキュメンタリーフィルムでもない何かが現代アートとして、そこに横たわっているかのような印象を持った。

展覧会場の入り口の壁左手には、トマス・ロッヒャーの作品となる、ドイツ基本法(日本国憲法にあたる)に於ける人権の定義が、書かれている。そしてその横にはおおよそ7〜8倍の量の注釈が並ぶ。しかも、ひとつの言葉につき2、3個の註が書かれているものまである。それはあたかも異なる時代の視点が異なる解釈をするように、この基本法、つまり人権が流動的であることを示唆しているようである。

その正面には戦後ドイツの歴史を彩る様々な出来事が素描されていた。例えば、緑の党が東ドイツを訪れた際の会見の模様や、1981年に行われた30万人を超えた参加者のいた軍備補強反対のデモンストレーション、90年のCDU (キリスト教民主党) 選挙キャンペーンの模様などである。それらは決して歴史に残る大事件として扱われる事は無かったが、多様な視点から歴史を振り返った際、どこかで誰かが語るであろう意味深い出来事に違いない。そのようなフロリアン・ヴュストの作品から大文字の”歴史”からはなれたどのような視点を持つか、を問うような提言を読み取った。

奥に進むと、カティンカ・ボックはインタビュー形式のドキュメンタリービデオを展示していた。彼は、ドイツで生まれ育ちヨーロッパで教育を受けトルコに戻った14人に質問を投げかけていた。質問の対象者は“再移民”した形となる。彼らに向けられた質問はに始まりドイツとトルコでの生活の違い、自由さの違いに至るまで様々だったが、そこで浮かび上がるのはドイツ人としてでもなく、トルコ人としてでもない、一個人としての葛藤だった。

ハルン・ファロキは、ドイツにおける雑誌や新聞にはじまり、語学の教科書、移民局のパンフレットなどの紙のメディアにあらわれる移民の図像を収めた映像作品を展示していた。そこには主に鞄や、髭、時にはヒジャブ(イスラム教の女性が頭部に巻くスカーフのこと)を巻いた女性が示されていた。これらの図像は、決してポーランドやイタリア、デンマークからではなく、トルコや中東から来ている、そのようにステロタイプとして理解されているという現状が良くわかる。

シャーラム・エンテクハビの作品も同じような構造を持つ。彼の今回のインスタレーションには、鞄やターバン、軍服だけでなく、石油タンク、銃、手榴弾など中東のイメージに結びつくものが、電球に囲まれた大きな鏡のある衣装部屋の様な部屋のロッカーに並べられていた。それはあたかも観客にそのイメージを身にまとう事を要請するかのようだった。

ファルク・ハベルコルン、スヴェン・ヨーネの共作も興味深かった。タイトルを「Kaufkraft und Heimatgefuehl (購買力と故郷感)」と題し、壁一面に新聞記事を貼り詰めていた。見出しを少し拾ってみると、「若き男がSPDに加入」「ドイツの市場は定員オーバー」その一方で「ガチョウのごちそうがお買い得」といった見出しや出会い系個人広告が顔を出していたりする。記事ひとつひとつに目を通して行くと、皮肉なまでにドイツという国や郷土に対してポジティブなイメージに彩られている事が分かる。

その他様々な視点を持った、国と個人のアイデンティティにまつわる作品がこの展覧会には並べられていた。時として、国とは何かを語る事があったが、EUという新たな共同体を前にして、国家という枠組みがこうも脆く、そして罪深い存在であるということをつくづく感じさせられた。

This land is my land

会期:2006年10月28日〜12月3日
会場:NGBK
住所:Oranienstrasse 25 – 10999 Berlin
http://ngbk.de

Text and Photos: Yoshito Maeoka

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