ヨーン・ボック 展

HAPPENING


『女神もいれば娼婦もいる。』現代美術に興味を持ち始めて間もない頃、あるひとが私にそう語って聞かせてくれた。様々な表現や作品が存在するからこそ美術はすばらしい、そのような彼の姿勢を象徴する、とても印象的な一言で、私の影響を受けた考え方のうちの一つだ。しかし、今回紹介するヨーン・ボック「Luette mit Ruccola」展において私が見たものは、女神でもなく娼婦でもない、人間の理性を越えた切迫した表現とも言える映像+インスタレーションだった。

この展示のメインは二部屋に分かれており、最初の一室には雑に散らかった小部屋風のインスタレーション、奥の部屋でアンティーク調の椅子やソファーの並ぶ部屋で映像作品の上映、という構成になっていた。

最初の部屋は、ある散らかった部屋の様子が再現されているような様子だった。しかし、何処か普通の散らかり様と違う、奇妙な構成。中央に置かれた机には万力で棚が固定されているし、所々に奇妙な装置の様な細工を施した道具類が置かれていた。その他意味をつかみきれない構成の家具類が雑然と並んでいた。そして赤い絵の具が血のように辺り一面に飛び散っていた。

二つ目の部屋で上映されていたのは、このインスタレーションの内容を連想させる「劇映画」と言ってよいだろう。

この35分にわたる劇映画は、少女リュッテとともに男が無作為に被害者の部屋を訪れるところから始まる。彼は強引に被害者を押しのけ部屋に入り、問答無用に押し倒し、被害者を縛り付ける。そして彼は少女に暗にコントロールされながら狂気の実験の準備を始める。恐れ戦く被害者をテーブルの上に縛り付け、実験が初めの山にさしかかると彼は少女を部屋の外に出す。

残忍、そう一言で表しきれないぐらい、彼の実験の実施する様子をフィルムは事細かに追いかける。彼は被害者の歯を抜き、爪を剥ぎ、指をもぎ取り、耳をそぎ落とす。そして被害者の体の一部は、実験道具に掛けられ試行錯誤されるものの、男はいっこうに満足する気配はなく、実験が続く。しかしながら、私には予測不能な一定の規則や存在するかのようだった。あたかもその実験は外で少女が行っていたおままごと遊びにも見える。

恐怖の実験一方では、顔を洗い毛布で身に付いた血を覆い隠し、時折ドアの外で退屈している少女の相手をする。彼は、彼女の前では父親役として、全く違った優しい表情を見せる。

冗長すぎるほど事の成り行きを描写したこの劇映画を観た後、ふたたび最初の部屋を覗いた。こうも印象が違うものか、と感嘆した。周りに飛び散った赤い絵の具を見るたびに被害者の苦しむ表情が脳裏を横切る。まさに私はアーティストの術中にはまったようだった。

会場にはこの他、彼が普段制作している、劇中に出てきた装置の様なオブジェが展示してあった。今回のこの劇映画との構成は初めての試みで、普段はこのような装置風オブジェを用いて「レクチュア」と呼ぶ心理学的/経済学的アプローチのパフォーマンスを行い、フィルムに収録し、インスタレーションと上映する事が多い。

好き嫌いや美的判断はさておき、とあるアーティストの新たな一歩を踏み出した瞬間に立ち会った、貴重な機会の様に思えた。


John Bock / Luette mit Rucola

会期:2006年4月29日〜7月29日
会場:Galerie Klosterfelde
住所:Zimmerstr. 90/91, 10117 Berlin-Mitte
http://www.klosterfelde.de/ex/ex-bock06.html

Text and Photos: Yoshito Maeoka

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