ZOO アートフェア

HAPPENING

なにも、ミュージアムやギャラリーだけが、アートと出会う場所ではない。秋のロンドンは、アートフェアがまさに目白押しといった中、その開催場所が実にユニークである。

まず向かうのは、ロンドン中心地、トラファルガー・スクエアからすぐのセントマーチンズ・レーン。もちろんここには、フィリップ・スタルク・プロデュースのデザインホテル、セントマーチンズ・レーン・ホテルがかまえている。そのファーストフロアをすべて使って行われているのが、スコープ・ロンドン、インターナショナル・アートフェアである。

50組の国内外から集まるギャラリストが参加する中、ゲストは、セントマーチンズ・レーン・ホテルの客室を一室ずつ訪れ、そのミニマリスティックな空間に、突然現われた作品群を鑑賞する。

さてその119号室で、素敵な女性アーティストに出会った。LIUBAというパフォーマンスアーティストだ。ビデオ作品の中での彼女は、スタイリッシュな黒いミニドレスに黒いレディライクなグローブ、それに黒いベールをつけている。そして、そのすべてに、さらには露出されている肩や腕の部分にまで真っ赤なドットのシールをいくつも張り付けていた。作品タイトルはウィルス、という。
ウィルスをまとった彼女は大きなアートエキシビジョンのオープニングパーティへ行く。そうして、さもエレガントな仕種で、展示作品の横の壁に、その真っ赤なシールを張って歩く。アート界において、赤いドットのシールは売約済み、を意味する。

でもね、と彼女はいう。『そのシールを張るだけで、人はその作品に興味を持つの。』

誰かがその作品を買ったということが、その作品を評価する一番の要因になっているのだと。小さな赤いドットが、いかに大きな影響をおよぼすか、まさにウィルスの仕業である。

ビデオは彼女を追って、パーティーで出会う人たちの反応やさらにはギャラリーの対応を写していく。
『ミラノのミュージアムでは、わたしのパフォーマンスをアートとして喜んで受け入れてくれたけれど、ニューヨークのギャラリーからは、つまみ出されたの。』
確かに、ギャラリストにしてみれば、すでに売約済みの印がはってあれば、誰も作品を買ってくれないのだから、さぞ憤慨したことだろう。いくら、彼女のウィルス姿が魅力的でも。

リージェンツ・パークを北の端まで歩くとロンドン最大の動物園「LONDON ZOO」がある。園の中に入り、フラミンゴを右手に見ながら爬虫類館の前を通り、アクエリアムを過ぎると、「ZOO アートフェア」が開催されている。イギリスを拠点にし、かつ設立4年未満の若いアートギャラリーやグループのためのアートフェアである。

IBIDプロジェクト」のリプレゼントするカーリー・ヤングの作品は人々を大いに楽しませているようだった。コールセンタ−で働いた彼自身の経験をインスピレーションに、それは成り立っている。
ラウンジタイプのソファーに座り、受話器をとる。それは目の前のフォトフレームに納められている写真の女性につながる。電話に出ると彼女は簡単な自己紹介をし、『それではオプションを選択してください。わたしのパーソナルバックグラウンドについて聞きたければ、1を、コールセンタ−でのワークエクスペリエンスを聞きたければ、2を、選んでください。』という。
1を選択すると、彼女の出身地や、学歴などを一通り聞かされた後、『わたしの経験について、得に何か知りたいことはある?』と質問される。
何人かのオーディエンスを見ていると、ただ聞く人、笑いながら会話をしている人、巧に質問を投げかける人、など様々だ。

この手のコールセンタ−に実際電話をすると、まず音声ガイダンスに従い、意図する用件の担当部署につながるよう取りはからわれるのが常であるが、機械の音声から、実際のオペレーターにつながった後ですら、彼らは決まった解答をするよう訓練されており、オペレーターのアイデンティティやキャラクターといったものは、雇用者からもカスタマーからも否定される。カーリー・ヤングはそういったコミュニケーションのあり方に疑問を抱くようになったのだろうか。彼のオペレーターは、楽しげに彼女の個人情報を語り、私たちは、彼女の見物人になるか、友人になるかを選択することができるのだ。

システマチックな現代において、個人が否定され、一般化されてしまう様をコールセンタ−という特有の場所を通して表現したこの作品。実際、これくらいフレンドリーなオペレーターが対応してくれたなら、たとえそれがクレームの電話だったとしても、少しは気がおさまるのではないだろうか。
各社のカスタマーサポートチームは、マニュアルを作成する以前に、彼の作品から学ぶべきものがあるかもしれない。

スコープ・ロンドン
会期:2005年10月21日〜24日
会場:セントマーチンズ・レーン・ホテル
住所:45 セントマーチンズ・レーン
www.scope-art.com

ZOO アートフェア
会期:2005年10月20日〜24日
会場:ロンドン動物園
住所:Prince Albert Gate, Outer Circle, Regent’s Park
www.zooartfair.com

Text and Photos: Sayaka Hirakawa

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