ロン・ミュエック

PEOPLE

ロンドンの中心部、トラファルガー広場にある美術館「ナショナル・ギャラリー」。ここでは、 1990年から尊敬すべくアーティストを招待し、美術館のコレクションとしての作品を制作してもらう「関連アーティスト」企画が多く行われている。


その「関連アーティスト」として最近選ばれたのが、彫刻家のロン・ミュエック。97年にロイヤル・アカデミーで開催された「センセーション展」で「DEAD DAD」という彫刻を発表したことでその名が知れ渡ったアーティストだ。

制作段階でも多くの類い稀な演出が行われているのはもちろんだが、ミュエックの作品には人体をかたどったものが多く、それら作品はシリコンやファイバーグラスで作られている。本物の人間と見分けがつかない程、作品はなかりリアル。唯一の相違点は、作品は息をしていないということだ。

今回の展覧会用にミュエックは新作4点を制作。誕生と母性というテーマをやんわりと感じさせる作品だ。会場を順番通りに歩いていくと、出産のプロセスが逆回りで紹介されているのに気付く。それを証拠に、まず最初に目に入ってきたのは「SWADDLED BABY(細長い布で巻かれた赤ちゃん)」という作品。おくるみで包まれた赤ちゃんが、枕の上で眠っている。全作品の中でも、実物大で表現されているのはこの作品のみ。このギャラリーでは、多くのアーティストが幼児期のキリストを、非現実的なものとして描いて来た。そしてそのことに刺激を受けたのが、このミュエック。とにかく細部に至るまで、ミュエックが生み出した赤ちゃんは本物そっくり。彼の赤ちゃんキリストには現実味があるし、本当にかよわい命がそこに宿っているような、そして、まだ見ぬ未来さえもその赤ちゃんから感じてしまうようなたたずまいなのである。

更に奥へと歩みを進めていくと、「MOTHER AND CHILD (母と子)」という作品を見える。全長54cmの母親が、たった今出産を終えた様子を表現した作品だ。赤ちゃんは、胎児時代にいたかつての定位置に横たわっており、そのことで母親のお腹はややしぼん見える。そしてその赤ん坊を静かに見つめる母。その母の髪の毛が出産のために乱れ、汗をかいている様子、そして肌の色も本物の人間とそっくりなため、完璧な程のリアリズムが強く感じられた。

メインルームには、2体の大きな作品が展示されていたが、最初の作品は、生命誕生と母性というテーマからははずれているように思われた。その作品とは、巨大な木製ボートが台座の上に置かれており、そこにおそらく50代と思われる男性が腕を組んで座りながら、あちらの様子を伺っている、というもの。この作品も同様に、細部までかなりリアルに表現されているが、この作品からは、答を見い出すというよりは、疑問の方を多く投げかけられているようだった。

そしてメインルームに展示されていた妊婦の作品こそ、今回の展覧会で一番印象的なものだ。臨月を迎えたこの妊婦の全長は、 2.5メートル。両腕を上げ、目は閉じている。その様子はまるで、お腹の重さに疲れているよう。このような大規模な作品があることで生じるのが、作品自体が完璧に空間を支配し、観覧者達が一周して見てみたいという気持ちにかりれるということ。これはもう、作品そのものというよりも、見る側の反応を見たいという、一種、強制的な状態。と言うのも、一周して見てみたいという衝動は押さえきれないものだし、親であることや子供の誕生といった経験は如何なものか?という疑問が湧いてくるのも自然なことだからだ。

この展覧会ではまた、作品制作の模様を撮影したビデオが上映されているほか、ミュエックが実際に使用した模型、協力を頼んだスタッフなどがディスプレイとして紹介されている。

Ron Mueck – Making Sculpture
会期:2003年3月22日〜6月22日
会場:The National Gallery, Sunley Room, Trafalgar Square, London, UK
www.nationalgallery.org.uk

Text: Tim Spear from Now Wash Your Hands
Translation: Sachiko Kurashina

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