アーキテチュラ:映像と現代建築と電子音楽によるイヴェント

HAPPENINGText: Jiro Ohashi

9月23日、新宿初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)ギャラリーAで行われたフィルム+コンサートは興味深いイベントだった。「アーキテチュラ:映像と現代建築と電子音楽によるイヴェント」と題されたこれは、ニューヨークを拠点に活動する映像作家イアラ・リーによる、現代建築と電子音楽という二つの異なるアートフォームが映像を介していかにして出会うことができるのかを、映像作品の上映、ソーマティック、アタウ・タナカ、シネプレックス、パナシアによる電子音楽のライブ演奏、およびスライドショウによって試みる複合イベント。

イアラ・リーといえば、エレクトロニック・ミュージックの進化の歴史を多くのインタビュー証言で淡々と綴った映画「モジュレーション」(1998年/アメリカ映画/アップリンク配給。先頃日本でも公開された)が印象深いが、こうして見ると映像と電子音楽に対する愛情と興味の眼差しには一貫性があり、ある種の執念さえ感じる。また実際に彼女は、実験的な電子音楽レーベル、カイピリンハ・プロダクションズを主宰しており、このフィルム+コンサートとは別にCDシリーズ版「アーキテチュラ」としてすでに4枚の作品をリリースしている。


Panacea – Brasilia (Architettura Vol. 4)

これは、1枚ごとにサヴァス・イサティス&テイラー・デュプリー、テツ・イノウエ、デイヴィッド・トゥープ、パナシアらが、それぞれ伊東豊雄、ニコラス・グリムショウ、長谷川逸子、オスカー・ニーマイヤー各氏の建築からインスパイアされた、様々な電子音響を提供するというもの。そして今回ICCギャラリーで行われたこのマルチ・フィルム・インスタレーションは、CDシリーズと連携して制作された「タワー・オブ・ウィンド」「ターミナル・ハピネス」「エンクローズド・ネイチャー」そして「モニュメンタル・ミニマリズム」の短編4本からなる巡回するインスタレーションのための「映画」である。

映像と電子音楽との連携表現というと、東京で特異な進化を見せる “VJ” 表現もオーバーラップする。東京におけるVJは、比較的数が多く治安面でも安全なクラブと、個人で高性能PCを所有する経済的に余裕のある若い世代の存在も少なからず影響している。非常に可能性のある表現分野ではあるけれど、音楽自体への興味の薄いPCマニアやCGフリークの参入もあり、玉石混淆な状態であるのが実状だ。

そうした中で、このイアラ・リーの独自の活動と存在にはとても興味深いものがある。自身でレーベルを主宰し、そして映像作品を作るというその姿勢は、その作品に照らしてみてもアーティストとしてとても自然なバランスである。独自の活動にみえてそれは、かつてテクノロジーによって映像と音楽の融合を図った多くの先人達(ビデオアーティストや電子音楽アーティスト)に正統的に連なるものでもある。

ソーマティックは、建築物を移動するカメラで捉えた疾走感のあるループ映像に対して、エッジの効いたミニマルサウンドDJを披露し、4部作の導入として効果的な役割を果たした。

続くアタウ・タナカは、米西海岸で音楽ソフトウェアの開発や、パリでのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)在籍といったキャリアを感じさせる電子音楽の実験の成果を、ノートブックPCを操作して建築物のスライドショーに被せ、独特の世界を展開した。しかしそれはとても静的なサウンドの実験で、ライブ特有の高揚感や疾走感とはまた違うものである。

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