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TRACK

THINGSText: Akira Natsume

代官山のレコード屋に、ぼけっと CDを買いに行ったら、 何やらビジュアルが目に焼きついてくる。「何だ、このかっこいい写真は、、」と心の中で一言。質感的には、マッシブ・アタックのジャケットのくわがたの写真ような印象だった。

このフリーペーパー「TRACK」を家に持ち帰りじっくりとクレジットを見ていると、最後にヒロ杉山のクレジットを発見する。その瞬間まで、この作品がイラストレーションであることに気がつかなかった。ヒロ杉山といえばグラフィッカーズの一員としてタイクーングラフィクスや、谷田一郎 (JJD) と共に活躍する日本を代表するイラストレーターの一人。

最近、印刷屋の「グラフ」の北川大輔と共に何やら面白い本を作っているというのは、スタジオボイスの記事で知ってはいたが、まさかこんなにスタイリッシュな作品をヒロさんが作っていたとは正直驚いた。

「TRACK」はフリーペーパーというよりも作品集という印象を受けます。出すに至った理由と目的を教えてください。

まあ一番の理由はとにかく作品を発表したいということですね、数年前まではギャラリーでの個展ということにすごく意識が集中していました。でも日本のギャラリーの状況ではすごくストレスがたまってしまい、というのもまず狭いということ、そして期間が短いという事からです。そしてやはり見に来てくれる人がかぎられてしまう事ですね。

そしてギャラリーで個展を開くのと同じような感覚で「本」を作り始めました。「本」は一度作ってしまえば半永久的に存在しつずけるということや世界中どこへでも送れるということ。重さがあり臭いがあるということなどから自分の意識は、個展から本へと移行しはじめてきました。そしてそのもう少し先の延長線上このフリーペーパーが出てきたのです。

紙上ギャラリーといった感じでしょうか。クライアントもなにも付けずなんの規制もな紙とインクで作品を発表する。お店に積んでおくとみんなが少しずついろいろなところに運んでくれて、他のひとに見せてくれる。どんどん作品が一人歩きしてくれる。たまんないですよねぇ、これって。

この「TRACK」のクレジットにヒロ杉山の名前を見つけるまで、僕の認識不足かも知れませんが、この作品がヒロさんの作品だとは想像もできませんでした。この作品の意図を教えていただけないでしょうか。

「TRACK」に関してはクレジットは僕になってますが僕個人というよりは、エンライトメントで制作するという感じです。スタッフといつも今一番どんな表現をしたいか?と話合っています。とにかく「TRACK」ではその時一番やりたいことやる。そこにはヒロ杉山のスタイルもなにも関係ないですね。まぁ、もともとヒロ杉山自体にもこれというスタイルはないんですが。「TRACK」が3年くらい続いたとして振り返ってみてなんとなく「TRACK」のニオイみたいのが世の中に残ったらいいなぁと思ってます。

ヒロさんは、日本を代表するイラストレーターの一人として、多方面で活躍なさってますが、ヒロさんの目からみて、イラストレーションやデザインなどの世界の現状をどのように捕えていらっしゃいますか?

マッキントッシュの出現でイラストレーターとデザイナーの区別は確実に無くなってきているよね。今はデザイナーが自分でどんどんビジュアルを作ってしまうし、わざわざイラストレーターにたのまなくなってるんじゃないでしょうか。でもそうなると全部マックの中で作ってしまい、全てモニターの中でものを考えるようになって、意識の広がりみたいなものが無くなっていってしまい、みんな同じようなものになっていってしまうんじゃないかと思うよね。

それに今すごい量の情報が世の中に溢れているのだけれど、雑誌にしてみてもどれもこれもみんな同じ情報で、皆で同じ情報から刺激を受け、同じCDを聞き、同じ映画を見る。そこからは平均的なものは出てくるけど、突出したものは、出にくいよね。もの作りは、何でもそうだけれどそこへ来るまでの自分の経験が影響するからね。

「TRACK」はどこで手にいれる事ができますか?

オンサンデーズ、ナディフ、ボイコット(渋谷店)、青山ブックセンター(六本木、青山本店)、ボンジュールレコード、ギャラリー360、今のところこのくらいです。始めたばかりなので置いてくれるところを捜しています。どこかいいところがありましたら、紹介してください。

これからの予定を教えてください。

月刊で発行していく予定です。毎月25日に各店舗に配付します。3年くらいできたら一冊の本にしようかと考えています。内容の方は、しばらくは、エンライトメントのアートワークでやっていきますが、そのうちいろいろなアーティストとコラボレーションのようなことができたらいいなと考えてます。常に新しいことをやっていきたいと思っています。そして続けることですね。1、2号は、とりあえず2000部刷ってるのですが無くなるのが早ければ3号目からはもう少し増やすかもしれません。

この「TRACK#1」は青山ブックセンターに配った分はその日のうちに無くなってしまったらしい。運よくこの号を入手できた人はラッキーだった。ヒロさんの事務所エンライトメント(作り手)とグラフ(印刷屋)、彼らのこの活動はコンピュータで全てが終わっている人々よりもぜんぜんマルチなメディアの事を理解している。コンピュータ上ということはそれが、どんなに素晴らしい情報や作品であっても2D であることには変わりがない。エンライトメントとグラフが作り出す作品からは確かな手応えと、ムっとする匂いと手触りを感じる。

個人的な感想としては「セルフサービス」や、「CRASH」のような最近の良質なフランス雑誌が放つ透明感とスルドサと同じものを感じた。たぶんこの「TRACK#1」が、日本からの返答に繋がるのだろう。実際手にいれないと伝わらないはず、再配付も開始したそうなので、足で探してみてください。次は 2月25日!

Text: Akira Natsume

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