イアラ・リー

PEOPLEText: Satoru Tanno

この映画を観た人にも肯定的にとらえる人と、否定的にとらえる人がいるようですね?

そうです。面白いでしょう?映画があって、それをみんな異なったレベルで解釈する。おかしいのは、この映画は肯定的にテクノロジーを擁護していると思ってしまう人までいるぐらいです。私自身、映画を作る側として、これはシニカルだし、テクノロジーのお決まりのイメージをおちょくっていて、多少は批判的視点もあるんですけどね。けれど、テクノロジーの肯定的側面だけを考えてる人には、数多く遭遇しました。どんなふうに人がこの映画を観るのか知るのは、興味深いです。

このテーマで続編をつくったら、面白いと思いますね。今の日本はすごい勢いで変化しています。テクノロジーの部分でもそうですが。シンセティック・プレジャーの続編を撮ろうとは思いませんか?

いいえ。いま、撮っている次の作品が、言ってみれば多少、その延長線上にあると思いますけど。面白いテーマだからシリーズにしてずっと取り組んだらどうか、というふうによく聞かれましたけど、自分自身ではいつも新しいチャレンジが必要なんです。そんなわけで、次は音楽を題材に新しい映画を撮ろうと思ってます。全く新しいチャレンジです。ずっと、同じ題材に留まる気がしないんですよ。ただ、Vol.2 をだれかやることは応援しますよ。(笑)

将来は、ブラジルで映画を撮ろうと思ってるそうですが?

そうです。それもまた違ったチャレンジになります。ドキュメンタリーや実験映画を作るのとは違いますし、全てが異なる環境でそのような映画をやるのは、思いきったことですけど。次の、新作「モジュレーション」の撮影が終り次第、おそらく俳優などをすべてを揃えて映画を撮ろうと思ってます。

いままでに映画をたくさん観てきたと思いますが、好きな映画監督はだれですか?

黒沢明と小津安二郎です(笑)。たまたま、2人とも、日本人ですけど。小津は、哲学的に非常に深いんですよ。黒沢もそうです。彼らこそ自分にとって重要な映画監督です。

過去のインタービューで、24時間快楽を与えるマシーンというようなことについて話されていて、それはナンセンスだというようなことを言ってましたが、われわれは楽しい時があるから、悲しいときがあって互いに補完しあっていると思うのですが、物事は相対的、条件的であって絶対的ではなくというか。

まさにそういう事です。それが、すべての基本的な考えです。人は、いつでも、物事の白黒をはっきりつけたがって物事を、良いとか悪いとか、白いとか黒いとか分けたがりますが、そんなに単純ではないんですよ。特に今、この千年末において、人々は人間と機械、リアリティーとハイパーリアリティーの区別を実感し始めています。みんな実際にこのような概念と対峠し、価値を判断している段階です。そのことがこの映画の最も面白いところだと思います。物事が白黒はっきりしないということを実感させるんです。まさしく、我々はグレーゾーンに生きていて、そして、そのことが素晴しいんですよ。我々は今、こういった概念を刷新し、新たな価値判断をしているところです。

しかしながら、テクノロジーが進歩すればするほど、おそらく、ますます我々は自分たちを楽しもうと欲すると思いますが、その場合、我々がそういったことをし続けられると思いますか?

えぇ、でも、ある意味で時々みんな楽しみ過ぎちゃう時があったりして、死ぬほどまでに快楽を得ようとする危険がありますね(笑)。コントロールへの欲求、完壁への欲求、100%の快楽への欲求は目的を正当化しますが、例えば、24時間のオーガスムなんてことになると、オーガスムにはなんの価値もなくなってしまうわけです。死に至るほどまでに快楽を得ようとするかどうかという問題に対して、注意深く立ち止まってみなければならないでしょう。

まるで、ドラッグの酷使のようですね、ハイになればなるほど、それが後になって無いときに抑圧されてしまう。

そうですね。人間は矛盾した物事を受け入れなければならない、という事実に向かい合わなければならないし、どちらか1つだけとって、もう一つはいらないというのは世界をつまらなくしちゃうでしょう。いつでも、楽しくて1日24時間、悦楽の極みじゃ、それはもう楽しいということにはならないですよね。いつもオスカー・ワイルドを引用するんですが、「この世には2つの悲劇がある。手に入らないことと、もう1つはそれを手にいれることだ」

イアラ・リーと話していると、彼女のコスモポリタンさがよく伝わって来る。自身も語っているように、彼女は韓国系のブラジル人だが、ブラジルというハイブリッドな土地柄と南北アメリカ的なバイタリティーと行動力、そしてなにより韓国というオリエンタルな思考様式を強く感じるのだ。かつて、俳句を題材に、芭蕉やアレン・ギンズバーグをとりあげ京都で短編の実験映画を撮ったこともあるという彼女は、現在、次作「モジュレーションズ」の撮影に取り掛かっている。再度のドキュメンタリーへの挑戦となるわけだが、今回は、エレクトロニック・ミュージックが題材となって、未確認ながらケン・イシイや細野晴臣などへの出演依頼も検討しているそうだ。「モジュレーションズ」今から楽しみだが、この映画、当然サントラも凄そうだ。

Text: Satoru Tanno

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