アルベルト・ジャコメッティ展「フェイス・トゥ・フェイス」

HAPPENINGText: Victor Moreno

ジャコメッティは、ドローイング作品も多く遺している。彼は、グランド・ショーミエール・アカデミーで学んだ後、モデルを使うことを拒否し、むしろ思考を補完するために、主に鉛筆で落書きをしたり、記憶を頼りにスケッチするドローイングを使った。平面的な構図や、抽象的で直線的なシュルレアリスムの表現は、間違いなく彼の芸術的進化の一部であり、彫刻家としての作品にも生かされている。


Alberto Giacometti, Le palais à 4 heures du matin, 1932 Coll. Fondation Giacometti, Paris © Estate of Alberto Giacometti / Bildupphovsrätt 2019

ジャコメッティは、現実を描くための様々な方法を追求し、当時のヨーロッパの芸術体制に反して、他の古代文化からインスピレーションを得ていた。当時パリは、アフリカ文化、ジャズ音楽、チャールストン、アバンギャルド、ネグロフィリアなどの影響を強く受けており、アフリカからの入植者がパリに移住したことで、1920年代末までにパリのナイトライフは、様々な新しいダンスや音楽のスタイルが花開いた。シュルレアリスムはそれらを受け入れたのである。これは、フランス人と黒人の間の自由な性の意味合いをも含んでいたため、賛否両論を巻き起こした。しかし、ジャコメッティは他の大陸にも目を向け、オセアニアのような古代文化の豊かな国やエジプトの文化を主なインスピレーションの源とした。ジャコメッティの彫刻は、だんだんと平面的で剥ぎ取られたものになっていき、当時のシュルレアリスム運動の重要なアーティストたちの注目を集めた。これは1935年まで続いたが、運動のリーダーであるアンドレ・ブルトンとの意見の相違により、彼はシュルレアリスム界から追放されてしまった。その後、第二次世界大戦の影響で生まれ故郷のスイスに戻り、1945年には再びパリに戻ってきた。


Alberto Giacometti, sketches. Photo: Victor Moreno

第二次世界大戦後のパリ、知的な生活の中に、世界中の芸術家が訪れて他の知識人と出会うことを熱望し、反植民地主義と実存主義を中心とする文化の原動力となるカフェ、モンパルナスがあった。人気があっても、とても謙虚で、親しみやすい人だったというジャコメッティは、スタジオを訪れた人にランチやコーヒーをご馳走し、喜んで案内しながら、散らばった新聞紙や封筒など、身の回りにあるあらゆる紙に落書きをしたり、スケッチをしていた。


Alberto Giacometti, La Clairière, 1950 Coll. Fondation Giacometti, Paris © Estate of Alberto Giacometti / Bildupphovsrätt 2019

ナチスの強制収容所の捕虜を連想させる細身の人間や長身の人間をモチーフにした彫刻など、第二次世界大戦は、ジャコメッティの芸術に影響を与えた。しかし、パリのナイトライフもまた、彼のインスピレーションの源となった。パリの酒場と女性が作品のテーマとなっているが、不思議なことに、動きのある男性とは対照的に、いつも静止した状態を表現している。

ジャコメッティは、作家のサミュエル・ベケットと親交を深めた。芸術的に言えば、その人間性の探求と極端な縮小を経た方法において、両者の間には絆があったと言える。孤立、亡命、空虚が、それぞれの作品の中心的なテーマだ。ジャコメッティの「暗い風景」(スタンパ、1952年)などの絵画でも、空虚さは重要な意味を持っている。当時ジャコメッティは彫刻を制作しており、それはベケットの劇作家としての作品の舞台美術の一部として使われていた。二人は親友として、また芸術家仲間として、失敗を恐れずにお互いを支え合っていたのだ。ジャコメッティの言葉を借りれば、『何かを作るために仕事をしているのか、作りたいものが作れない理由を知るために仕事をしているのか、私にはわからない』のだ。

“Giacometti – Face To Face”
会期:2020年10月10日(土)〜2021年5月30日(日)
時間:10:00〜20:00(土曜日曜は18:00まで、月曜休館)
会場:ストックホルム近代美術館
住所:Slupskjulsvägen 7–9, 111 49 Stockholm
入場料:170 SEK(シニア・学生140 SEK)
TEL:+46 8 5202 3500
https://www.modernamuseet.se

Text: Victor Moreno
Translation: Satsuki Miyanishi
Photos: Åsa Lundén, Courtesy of Moderna Museet © Estate of Alberto Giacometti , Bildupphovsrätt

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