リチャード・バイヤーズ

PEOPLEText: Joanna Kawecki

印象に残ってるのは、ユキコがショー終了後に、先ほどまでの出来事を事細かに説明してくれて、それがあたかも光と会話してるように聞こえたこと。投影された光は上手く彼らの声の特定の周波数に反応するように調整されてたのですが、パフォーマンスのある時点で3人が観客に背を向けて、スクリーンに直に向かい合って立ったのです。その、ぞくぞくするような歌声と、シンコペーションを用いたハーモニーがまさに光と会話してるようで、あの瞬間あの場に居てすごく興奮させられましたね。

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Sound.transmission.light Project Sydney © Richard Byers

東京の後、僕はオーストラリアに戻り、それからオン・ヤウが訪ねて来てくれて、2010年にはシドニーで4人のミュージシャンと一緒にパフォーマンスしました。2つのショーを行い、その両方を通して、僕らがやってることで観客、そして、参加しているミュージシャン双方が愉しんでる、というのが確かな手ごたえとして掴めました。ミュージシャンたちにとって、映写された光というのは、新たに加入したバンドメンバーのような感じで、一緒に作業したり、意見を交換したり、観客を魅了できるものを一緒に作り出せるような存在そのものなのです。次の街ブリスベンでは、クイーンズランド州立図書館の「エッジ」というデジタル文化施設でアーティスト・イン・レジデンスとして4ヶ月を過ごさせて貰いました。そこにいる人々には感謝しています。ただ最近大洪水が起こったばかりで彼らのことが心配です。
エッジでは、さらにソフトウェアをプログラムして物理センサーとArduino(アルデュイーノ)というシステムのマイクロ・コントローラを組み込みました。ブリスベン在住のエレキギタリストのバンバンと、アロンゴ・テ・フィウとハンナ・シェファードというヴォーカリストの3人のミュージシャンとコラボレートしたのです。即席の5.1chサラウンドシステムを作ったり、3chのサラウンド・ビデオでのパフォーマンスを行いました。さらにインスタレーションとして、会場内で観客が先ほどのパフォーマンスの音楽やビデオを、動きを利用して再現するっていうのも行いましたよ。

2011年は、この一環のパフォーマンスも一先ず終わったので、これを書いてる今、ベルリンに戻って次の「音・伝達・光」のパフォーマンスを行う予定です。今度はクレア・クーパーとクレイトン・トーマス、それからオン・ヤウもいます。今年の4月にはベルリンにあるオーストラリア大使館でパフォーマンスを行うことになっています。

観客に向かってあなたが投げかけようとしている考えは、どういったものなのですか?

ただの考えではなくて、それ以上に僕らは作品の中に含まれる感覚を伝えて、観客自らが心の内に持つ感情が、素直に反応できるというパフォーマンスを行いたいのです。

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Sound Transmission Light Brisbane © Richard Byers

新しいプロジェクトを手がける時に刺激を与えてくれるものはありますか?

人生こそがインスピレーションの源です!ある特定の場所の、近辺の環境というのは、直接的なインスピレーションになることが多いですね。僕は、いつも色々な場所の写真を沢山撮るのですが、特に細かい部分や物、それも見過ごされたり、常にそこにあるがゆえに忘れ去られている物を選んでいます。いつもそこにあると、ついつい存在を忘れてしまうことってあると思うのですが、たとえ常に目の前にあったり聴こえたりしてるものでも、一度立ち止まって見てみようよ、ということなのです。例えば、通りに置かれた牛乳瓶を運ぶプラスチックケース、これは椅子代わりに使われてるのですが、ほとんど誰もケースには目もくれようとしない。そこで僕は想像してみるのです。もしそのケースが建物の間を縫って、通りを歩き出したらって。そしてそれを実際に作品に組み込んでみる。もう一つの例えは、「サラウンディングス 5. 1. 3」というブリスベンでのパフォーマンスの構想を練ってた時のこと。当時、僕が借りてた家には典型的なオーストラリアの中庭が付いてたのですが、ちょっと草が伸びきっていて、でも日没の時には、とにかく素晴らしい景色が一面に広がっていたのです。太陽の光がとにかく綺麗で、緑色の草原の上に黄金色の光が照り輝いていて。そこで、ビデオカメラを丈の高い草の間に置いて、太陽の光と草の葉の形を映像に収めたのです。すごく単純なことだったのですが、それをパフォーマンスの中に組み込んだところ、観客とミュージシャンを、ゆっくりと風になびく草と日の光の映像が取り囲んで、何だか昔から親しんでる環境にいるような気分になりました。ただ慣れ親しんだ、といっても、たぶん彼らがこれまでに体験していない角度からのという意味ですけどね。

その他に、主に影響を受けるものといえば、音楽と音。「音・伝達・光」で才能溢れるミュージシャンたちと一緒に作業していると、素晴らしいインスピレーションを次々と得ることができるのですよ。僕個人の作品制作では、大抵少ない作品を沢山聞くようにしています。同じアルバムを延々繰り返して一日中、あるいは一週間ずっとそればかり聞いたりします。こうやって、その音楽に対して持つ隠れた感情や、自分の感受性なんかを吸収していきます。それが下図となってさらに言葉や絵になっていき、そこから作品のコンセプトなどが生まれてくるのです。
さらに、いつも膨大なインスピレーションを与えてくれるのが人間です。プロジェクトに参加する人だけでなく、一緒にお茶を飲んだり食事をしたり、一杯やったりする人もその中に含まれています。他人と感情を通わせるという行為をしている時点で、それはもう一緒に作業しているも同然なのです。プロジェクトに参加している人間に限られた事ではなく、回りの環境や人、感情が僕を刺激してくれるのであって、僕も彼らに同じように刺激を与えられる存在でありたいと思っています。

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