丸若屋

PEOPLEText: mina

上出長右衛門窯とのプロジェクトについてお聞きしたいのですが、上出さんとの出会いの経緯やどんなところに魅了されたのか教えてください。

僕は日本オタクな部分もあって、それは否定するところじゃないんですけど、何でもいいってわけじゃないんですよ。日本文化を守ろうっていう観点から入ったんじゃなくて、すごく自然なところから入ってきてる。だから日本の伝統工芸に関しても10個あったら2個くらいしか興味持たないです、多分。その中でまさしくいい例として、上出長右衛門窯というものがあって、彼らのつくっている感性と姿勢はまさに魅了されるに値するものでした。

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「滑る千石舟急須」上出長右衛門窯 © SPIRAL / Wacoal Art Center. Photo: Katsuhiro Ichikawa

それはひとつは、現在も前に行こうとしているということ。前に行くっていうのも色々あると思うんですよ。例えば、助成金をがっちりとろうっていうのも前に行こうとしていることだと思うんですけど、彼らはあくまで先代から自分の代に変わったことに対して、どうやっていくのかとか、長衛門窯っていうものをどうやって今の時代感に合わせていくのかを考えている。すごく現代に合っているんだけど、昔ながらなんですよ、精神部分が。つくってるものも素晴らしい。そういうところで非常に魅了され、次期6代目の上出恵悟さんとの出会いがありました。彼との話の中で僕のポジションで考えること、彼のポジションで考えること、もちろん角度も全然違うわけですし、お互いに育った環境も全然違う。でも、同じ向かおうとしてる部分が非常に共感できたこと、そこに関してはほとんど会話がいらなかったんです。他のつくるという工程の上では、色々とああじゃないかこうじゃないか、できるできないってあったんですけど、そこの部分に関しては本当に短い期間で共有できた。これはすごく自分の中では大きくて、これならやっていけるなっていうのがあったんです。フィーリングというか、言葉であんまり言えない部分を共有できたので。

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KUTANI SEAL PRODUCTS

「KUTANI SEAL WORKSHOP」は九谷焼の転写(あらかじめ印刷された文様をシールにのように貼り付けて焼く)技術を使って遊ぶワークショップですが、手書きの上出長右衛門窯では使わない技術です。それを彼らとやろうと思ったのは何故ですか?

普通の言葉ですり合わせただけの関係ではできないくらいの振り幅のことをやろうと思ったんです。方向が一緒だからできるよねっていう、ギリギリのところをやりたい。その中で「KUTANI SEAL」というのができた。お客さんたちにも喜んでいただいているのは、言葉の部分ではなくて、そういうことを感じ取っていただいてる部分もあるんじゃないかなと。ビジネスのためだけにああいうものをやったわけでもないし、きれいごとのためでもなくて、すごく現実的で日々の日銭を稼ぐためにという意味合いもあるわけですから、もちろん。すごく現実的な中で生まれたものなんですよ。

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© SPIRAL/Wacoal Art Center. Photo: Katsuhiro Ichikawa

ワークショップは2009年から始めました。子供からお年寄りまでが参加していて、課外教室の延長みたいな感じで老眼鏡をとったりつけたりしながらやってる方もいます。ビアグラス、マグカップ、プレート、シリアルボール、湯のみ茶碗、茶碗などから形が選べて、シールは45種の絵柄や文字があります。シールのモチーフは対象物が七福神であったりとか、干支であったりとかしますけど、絵は全部現代のもので上出恵悟の書き下ろしです。

ジャパンブランド政策の影響もあって伝統工芸とコラボレートするものも多いですよね。それは伝統やローカルが持つ価値とか魅力を再認識するひとつのきっかけではあると思いますが、一方で資本主義経済の枠組みの中心に伝統工芸が据えられ、振り回されて伝統工芸自体が疲弊しているような話も耳にします。例えば、これまで守られてきた伝統工芸ゆえの生産体制を混乱させてしまうきっかけになったり、職人に負荷がかかったり、あるいは大量生産用に伝統技術の見直しを迫られるような問題に直面したり。伝統工芸を取り巻く、そういうものづくりの現状をどう思いますか?

いい部分と悪い部分両方あると思うので、一方方向で見ないようにしています。伝統工芸をやってる人たちって今辛いんだよね、この時代辛いんだよねってよく言いますが、300年前の伝統工芸をやってる人たちは違う意味でもっともっと辛かったと思うんですよ。その時代、時代にいろんな外からの圧力や内からの圧力というのがあったと思うので、それも素直に受け入れることが大切だと思うんです。まずそれは、つくり手の人たちの気持ちとしてそう思ってもらいたい。だから、なんで俺の代はこんな時代背景に生まれてしまったんだろうとかいうのではなく、自分の直系で先生というか先輩たちの乗り越えてきたっていう実績があるわけじゃないですか。それをもうちょっとポジティブに捉えてもらえたらなって思いますね。もうひとつは、ジャパンブランドのような政策に関してですけど、僕個人はポジティブかネガティブかって言ったら現状の仕組みにはネガティブです。現場を知らないで何かをやるのは無理があるわけですよ。特にこのジャンルはそうだと思うんです。でも支援は必要だと思います。なぜなら国のアイデンティティっていうか国力を示すものだと思うので、それを国が保全したりバックアップするのは当たり前だと思うからです。大切なのはその仕方ですよね。

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