プレオーガニック・コットン・プログラム
2009年2月、「kurkku」 (クルック) が手がける「プレオーガニック・コットン・プログラム」で、初めてつくられたTシャツが展示会で発表された。
© Photo: 須藤秀之
胸には忘れられることのない“あの日”がデザインされている。ジョン・レノンが銃弾に撃たれた日。ニューヨーク同時多発テロ、アポロ11号月面着陸、チェルノブイリ原発事故…。デザインはニコラス・A・オルガ氏。
様々な問題を解決することで、世界はひとつになれると考え、過去に起きた象徴的なできごとから時代が変容していったことを表現している。
オーガニックコットンは時々聞くけれど、「プレオーガニック・コットン」って何だろう。そんな好奇心から、まずはこのプロジェクトについて知って欲しい。
プレオーガニック・コットンプ・ログラムとは、ひとことで言うと、インドのコットン農家がオーガニックコットンへ移行していく過程を支援するプログラム。オーガニック_コットンとは3年間無農薬、無化学肥料の土地で栽培された綿花のことをいう。そして、「CONTROL UNION」や「ECOCERT」などの世界的なオーガニック認証団体から認証を得て初めて、オーガニックコットンと認められる。インドのコットン農家による、そんなオーガニック・コットンへの移行がなぜ、この日本でプログラムになるのか。
そこに、このプログラムの本当の目的があるようだ。
綿花の作付面積は、全世界の農地面積の約5%。しかし、そこで使用される農薬は全世界の10%、殺虫剤に至っては25%を占めると言われている。そのため、周辺の土壌汚染や水質汚染の他、農薬を扱う農家の人々への健康被害が深刻視されている。農薬を吸引することによる気管支の病気、ひどい皮膚疾患。汚染した水を生活用水として摂取することでの内臓疾患など、環境汚染とクオリティ・オブ・ライフの低下が日常の中で、生きることと背中合わせになっている現状があるからだ。収穫量を確保するために農薬散布を強迫的に行い、借金を重ねては農薬を購入し、散布する。負の連鎖が止まらないのは、そんなサイクルのせい。
コットンという身近な素材は、私たちの暮らしに欠かせないものになった。その当たり前だと思っている恩恵に私たちがあやかれるのは、海の向こうの誰かの命やクオリティ・オブ・ライフの低下、環境汚染の犠牲の上になりたっているんだということを、私たちはそろそろ気づかなくてはいけないのだろう。コットン農家がオーガニックコットンの認定を受けるまでの3年間。収穫量は減り、コットン農家には大きな経済的負担がのしかかる。それを苦に自殺するコットン農家もいるという。
プレオーガニック・コットン・プログラムは、私たちの欲望がこんなにも無責任に、誰かを苦しめていることを知り、経済による繋がりがこれまで生み出してきたシステムの歪みや環境汚染を、“新たな” 経済の繋がりで克服していこうとするプログラムだ。私たちの欲望や消費で、誰かの苦しみや痛みをシェアする。そして、シェアすることで生産者と消費者の理想的な繋がりと望ましい未来への移行をサポートしていく。
つまり、オーガニック・コットンと認定されるまでの3年間に収穫されたプレオーガニック・コットンを、プレミアムを付けて買い取り、商品化し販売することでコットン農家のオーガニックコットンへの経済的移行負担をサポートしよう、というものだ。また、ハーブを上手に利用した自然の殺虫剤など有機農法の指導やオーガニックの認証取得のサポートも、このプログラムで実現されていく。私たちの消費が、消費で終わらない。循環する消費の新しいありようを探っていく試みでもある。
2009年の春、プレオーガニック・コットンプ・ログラム第一弾のTシャツが、やっと店頭に並ぶ時がきた。これは昨年の6月に種まきされ、収穫されたプレオーガニックコットンが、多くの人の希望をも一緒に紡ぎながら海を渡り、日本に届いたもの。欲望を消費する店頭でこのTシャツを見つけたら、プレオーガニック・コットンの意味を思い出してみてほしい。あなたが購入することで、忘れていた世界の“繋がり”をもう一度意識することを。