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デザインエッジ・カンファレンス 2005

HAPPENINGText: Yoshihiro Kanematsu

カンファレンス2日目のセッションも、昨日同様ウェブサイトをみれば分かるような作品紹介に終始していて、ステージ前のビーンクッションの席の観客はうとうとしている。そして、倉石一樹の時に空気はさらに微妙なものとなった。何も持参しなかったという彼とのセッションはQ&A形式になり、『作品がないと質問もできない。』というもっともな意見が噴出し、質問したとしても素っ気無い受け答えを連発する。目の前にいるのにまるで遠い存在。そのとき一人のオーディエンスがマイクを手に取った。『主催者に言いたい。この馬鹿げた展開はなんだ?僕たちはプロセスを知ろうとここに来たのに、作品を見せられるばかり。これで何が得られたというのだろう?』会場の声を代弁するスカっとする突っ込みに会場からは大拍手、波乱のセッションは後味の悪いまま終了時間を迎えた。

この微妙な空気を颯爽と変えたのがロースター!「グラフィックのパワフルなところにぞっこんになった」という彼が見せてくれた、スケッチブックで描いていく破壊と創造の映像には場内も釘付け。『僕たちアーティストには君たちが必要なんだよ。』というビッグブラザーの包み込む言葉に打たれ、ギスギスした気分はどこかに行ってしまった。それでもカンファレンスの意義をオーディエンス側から突きつけたこの局面は、ストリートカルチャーシーンでありがちの何だか閉鎖的な感じを端的に示している気がして、いろいろなことを考えさせられた。

カモフラ王・マハリシのセッションで全てのカンファレンスは終了し、再びエキスポタイムへ。デルタのライブペイントが予定されていたが技術的な都合で残念ながら実現できず、その代わりに急遽タギング会を行っていた。一転リラックスした雰囲気の中で、『どこから来たの?』『デザインを学んでるの?』と会話が弾んでいる。会場でもらえるオフィシャル・ブックレットはタグやサインで埋め尽くされて、ファンの面々もこの上なく幸せそうだ。こうしてお気に入りのアーティストと直接話せることは確かに大切かもしれないけど、相変わらずの「ビッグスターとファン」という非対称な構図はそのままで、『オレの作品を見てくれ!』という輩がほとんどいなかったのは引っかかるところだった。

悶々としたままファンク・ステューディオの展覧会「Decade of Decadence」へ足を伸ばす。ファンクは、ステファン・サグマイスターをして『やろうとしたものが既にやられていて、あいつら嫌いだよ!』と言わしめるシンガポール・カルチャーシーンの真のチャンピオンだ。ワクワクするさすがの仕事たちが並ぶその空間は、ダークでゴシックなデカダンス(=退廃的なもの)だった。

思わずハッとする、壁にフライヤーが煩雑に塗りたくられたこの感じ、それはシンガポールのストリートでほとんど見かけない小汚くてパワフルな光景だった。一歩外に出れば、グラフィティはおろかステッカーさえほとんど見かけない。「死刑のあるディズニーランド」と揶揄されるシンガポールにおいて、グラフィティは「鞭打ち刑」に相当する。そんな汚れのない国を舞台にストリート出身のアーティストが数多く「反抗」について語っていること、それはシンガポーリアンにとって何を意味していたのだろう。

こうしていろいろな思いが交錯したデザインエッジの日々は終了した。ビッグスターとファンの非対称がひたすら印象に残る中で、『僕らはビジュアル・ロックスターになる』というファンクのアッパーなフレーズが心に残る。プレゼンターとオーディエンスの距離感は、シンガポールを豊かなデザインマーケットと捉えるならば大成功なのかもしれないが、『我こそは次のロックスター!』と思い描く若い才能にとっては物足りないものだったかもしれない。デザインのエッジ、それはその距離が縮まってぶつかり合う、煮えたぎったギリギリの境界にあるはずである。

DesignEDGE Conference & EXPO 2005
会期:2005年11月10日(木)〜12日(土)
会場:Singapore SUNTEC Halls
住所:1 Raffles Blvd, Singapore 039593
TEL:+65 6337 2888
https://www.designedge.sg

Text: Yoshihiro Kanematsu
Photos: Yoshihiro Kanematsu, Syunya Hagiwara

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