ディオール・ショップ・ミラノ
PLACEText: Francesca Picchi
スリマンのポジションは、彼が最初に手がけたディオール・オムのパリで行われたコレクションで公式に発表となった。あらゆる企業のトップがパニックを起こしていた。カール・ラガーフェルドとベルナール・アルノーは方を並べて座っていた。そしてイブ・サンローランがフォードが上演したクローンモデルのパレードの為に欠席したその日、その機会が訪れたのである。
スリマンがディオール・オムのアートディレクターとして最初に行ったのは、企業イメージを管理することであり、ブティックの空間をデザインすることであった。
長い鏡の壁と階段を囲むガラスの光の反射で、空間の知覚が失われる。
アトリエは、ディオール・オムというブランドを世界中に広める店舗のモデルとなる。最小限だが完璧なディテールは、照明の効果によって、未来的なオーラを生み出している。スリマンが目指している現代的な空間は、アトリエの伝統的で古典的なフランソワ1世のサロンのようなムードに根ざしている。ディオール自身は、それを彼の独特な現代的な上品さの出発点と捉えている。そして、パールグレーのモケットとディオールのメダリオンが後ろに付いたルイ14世の椅子は、ディオールが最も古典的な表現とするオートクチュールだということを彷佛とさせるのである。
スリマンのデザインの肝であるピエール・ユイグの芸術作品は、文化と商業の関係という難しい問題を提起している。
ミラノのストアは、この精神を保ち言及を繰り返しながら、文化と商業の融合をさらに進めている。ファッション業界がブティックと呼ぶことを好むように、ディオール・オムの新しい空間は、アーティストの作品と結びついているのだ。前回のヴェネツィア・ビエンナーレでフランス代表として参加し、現在カッセルのドクメンタ11に出展しているピエール・ユイグは、ミラノ店の建築内に、売り場の試着室として機能することを目的とした空間を設計した。
ブースは奥まった落ち着いた空間で、中に入ると、顧客は一番奥の壁に向かって流れるように作られており、鏡に映った自分のイメージを見る時には、生まれてから今まで会った事がなかった自分の双子の片方を見るかのような感覚に襲われる。ブースに添って動くのは客の影。狭く長い空間を最後まで歩いてみると、その動きに壁が反応し、その表面が客のジェスチャーの光の中で二重になる。ブースを動くことで、無意識に様々な光と交差するようになっているのだ。
Dior Homme Milan
住所:14 Montenapoleone, Milan, Italy
TEL:+39 (0)2 7639 8530
https://www.dior.com
Text: Francesca Picchi
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Andrea Martiradonna, Courtesy of Dior Homme Milan
