人狼

THINGSText: Shinichi Ishikawa

「首都警」の隊員のフル武装による戦闘シーンは「人狼」のもうひとつの見どころ。作品全体ではそれほど登場シーンは多くはないが、忘れることのできない印象を残す。昭和30年代という設定もあって、ハイテク装備は頭部の暗視スコープぐらい、あとは頑丈なアーマー(背中にあるのは通信機器か)と、固定用の重機関銃を携帯用にカスタムしたような重火器のみなのなのだが、このシンプルさがかえって生々しい暴力性を感じさせる。拳銃もモーゼルを思わせるタイプで、これは当時の多弾装オートマテックにしては最強の部類。どちらにしろこれらの火器はかすっただけでも、撃たれた人間がショック死するレベルのもので、「首都警」という組織の性質を暗に表現している。つまり、彼らはただ純粋に「殺す」のみが目的であり、その点については「軍隊」よりもピュアなのである。

寡黙な主人公の内面が彼のなにげない行動によって描がかれている。物語の途中からヒロインが登場してからもその傾向は変わらない。観る側としては二人が一緒のところを眺めて、ほんの稀にかわされる会話に耳を傾けるのみだ。静かな関係。ラストまで観てしまうと2人の関係はとても奇妙なものだったと分かるだろう。同時に、一緒にいるのに一緒でなかった、とも思える関係性に僕は深い共感を感じた。僕達は時々、ここではないどこかを求める。でも、本当はそんなものは無いのではないか…、そんなリアルさを確認できたような感じがした。

また、本作では、「首都警」と他の公安組織との政治的抗争についてサスペンス調のサブ・ストーリーがあり、これがラストでは主人公の心情と巧妙にリンクして作品としての完成度をあげている。本作の沖浦啓之の監督としての手腕としてもっとも評価したいのは、押井守の脚本の本質を最大限に活かしながらも、時にストーリーの流れを悪くさせがちな押井ワールドの強力なアク(登場人物の長セリフ、多い情景描写など)をあまり感じさせずテンポよくまとめている点だ。それによって、本作は起承転結のはっきりとした、わかりやすさを持つことに成功している。また、マニア好みのメカニック描写はその密度はまったく手抜きのない高レベルのものだが、シーンとしての比率は多くはなく、作品全体では人間ドラマにより重点がおかれている。これらの要素は作品としてハイレベルと呼ばれるのには非常に重要なことであり、この点において「人狼」は「攻殻機動隊」を超えているではないだろうか。

人狼 JIN-ROH
ファンタスポルト映画祭:ベストアニメーション&審査員特別大賞
2000年初夏 日本凱旋ロードショー公開予定作品
1999年/日本映画/35mm/カラー/98分/ビスタサイズ/DTS
原作・脚本:押井 守
監督:沖浦啓之
アニメーション制作:プロダクションI.G
配給:バンダイビジュアル、メディアボックス
製作:バンダイビジュアル、ING
© 1999 押井守/バンダイビジュアル・プロダクションI.G

Text: Shinichi Ishikawa

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