ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・フォトグラフィー

THINGSText: Victor Moreno

デジタル化における混乱を写真以上に経験した職業は他にないだろう。カメラ付きの最初のiPhoneが登場した2007年から2012年のコダックの倒産まで、特許の多くがアップルやグーグル、アドビなどの会社に売られるなど、アナログからデジタルへの移行が広がった。その影響は、編集業界におけるビジネスモデル、現代のマーケティングシステムでの収益化にあくせくする雑誌出版社の大規模な混乱を生んだ。出版社は、ネット化を急いで進め、クリエイティブなものを扱う部署を作り、資産を最大限に活かせる新しいビジネスモデルを探し続けてきた。

1854年に創刊した、写真を取り扱う媒体ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・フォトグラフィー(BJP)はこの流れに逆らう。経験に基づくイメージを引き出すブランディングされたコンテンツとキャンペーンを印刷物、デジタル、SNSで行い、近年はクリエイターとブランドを繋げるという新しい任務に乗り出し、また現代社会の文化的で芸術的な側面を探るための、ブランドと手を組む。

雑誌「BJP」を発行するとともに、様々な活動も行う出版社である1854メディアのCEOであるマーク・ハルトフはこのように説明している。『コンセプトはシンプル。スタジオ1854は世界中のクライアントへ卓越したコンテンツを売り込み、このコミュニティが新しい仕事を生み出すための収入を得る機会を作りだしています』


Issue #7876: The Portrait Issue

写真はBJPの主力ツールだ。写真は人類が最もアクセスしやすく、強力で民主的なコミュニケーションの形態だと考えられる。写真は文化の境界を越えて独特の視点を提供し、決して達成されなかった感情を生み出す力さえ持っている。1854メディアは、ビジュアルコンテンツの代理店の中心となるアイディアを備えた創造的なスタジオで、芸術と商業の交差する興味深い発展、つまり写真家が現代のマーケティングシステムの中でプロジェクトをベースとした仕事を生み出すための新しい機会を提供する。この一つの形態が、コンペティションの開催だ。


Tom Hegen: The Salt Series

例えば2017年11月には、視覚的な美しさではなく、説得力のある物語や主題に基づくドローン・ショット・プロジェクトを通して、新しいアイディアやストーリーを盛り上げるドローン・フォトグラフィー・アワードを発表。民間のドローンと空中映像技術の世界的リーダーであるDJIによるこのプロジェクトは、人がアクセスできない場所や視点に到達する機会を与えてくれるものとなった。受賞したトム・ハーゲンの「ザ・ソルト・シリーズ」は、自然環境への人間の介入の影響を探る航空写真を取り上げ、マルケル・リドンドの「サンド・キャッスル(パートⅡ)」は、スペイン全土で空き家になっている340万戸の住宅について新たな展望を示す作品であった。


Caroline and Kadeem © Laura Pannack

スタジオ1854は、賞品や展覧会の他に、フォトグラファーのための委託作品を個別に提供している。最近、スタジオは「ブレクジット(イギリスのEU離脱問題)が、愛にとって何を意味するのか?」という質問を提起し、イギリスでのブレクジットの影響を調査した。スタジオは賞を受賞した写真家ローラ・パナックに、ブレクジットの影響で離婚を強いられるカップルを調査する一連のポートレイトを作成するよう依頼した。パナックは14組のカップルを撮影し、スタジオは舞台裏の映像とインタビューでいくつかの映画を制作し、ストーリーを作り上げた。このプロジェクトのために、彼らはプロ用の画像編集ソフトウェアであるアフィニティ・フォトとのパートナーシップを確立した。


2016 Rio Olympics – Gymnastics training – Rio Olympic Arena – Rio de Janeiro, Brazil – 04/08/2016. Lee Eun-Ju (KOR) of South Korea (R) takes a selfie picture with Hong Un Jong (PRK) of North Korea. REUTERS/Dylan Martinez

ソーシャルメディアの登場と並行して、写真はこれまで以上に大きな力とインパクトを社会にもたらした。一度に一つの写真を何千人もの人々が共有することができるという例では、2016年のリオ・オリンピックで韓国のイ・ウンジュ選手と北朝鮮のホン・ウンジョン選手が一緒に撮影した自撮写真が挙げられる。フォトジャーナリストの手によって、両国の政治対立のピーク時に完璧なタイミングだったその一瞬が不朽のものとなり、ツイッターでは数時間のうちに18,000回もリツイートされた。

私たちが住んでいるこの社会では、写真が瞬時にメッセージを伝える力、または膨大な観客にストーリーを伝える力を持っている。この点で、伝統的なテレビは時代遅れのチャンネルになっている。例えば、2019年までに、デジタル広告は全世界の広告費の50%以上を占めると推定されているのだ。今日、人々が交流をはかるのは、自分の選択したコンテンツのみ。強制的な一方向放送メディアからの古いスタイルの有料広告の時代は間違いなく終わりを迎えている。その結果、多くのブランドは、人々の注意を呼び起こし、正直なやり方で、消費者と関わりを持つことで価値を伝える新しい方法を模索しなくてはいけなくなっている。

BJPの1854メディアによるクリエイティブでユニークな、商業、ジャーナリズム、アートの境界をぼかすビジュアルの物語には、この正直なアプローチがある。これは、写真界の長年の専門知識とネットワークによって支えられており、斬新な視覚的方法をとるブランドにとって確かな選択肢となっている。

もう一つの例は、イギリスのグリーン・パワーを販売する会社であり、英国最大の風車所有者であるエコトリシティとの作品だ。内容は、イギリスの田舎を産業化し、環境に悪影響を与える恐れのある、フラッキング(採掘の水圧破砕法)の未知の物語を捉えるもので、1854クリエイティブは、フォトグラファーたちに、イギリスでのフラッキングについて、それぞれの物語を伝える機会を提供した。別の例では、スタジオが旅行代理店と提携してカリフォルニア州の魅力を視覚的に伝えるプロジェクトもある。

Text: Victor Moreno
Translation: Satsuki Miyanishi
Photos: Courtesy of the artist

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