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モナ・ザンディ「金曜日の午後に」

THINGSText: Sevin Matsushita

ご存知の通り、1979年イランでは革命が勃発しイスラーム教の価値観を重視した国家が誕生した。新政権はプロパガンダアートを活用し国民を団結、8年間に及ぶイランイラク戦争に挑み、さらに新政権は国民による自由な発言や表現を抑圧した。イランでは文化・芸術活動を行う時には必ず文化イスラム指導省(ペルシャ語ではエルシャド)から活動許可を得る必要がある。エルシャドはその文化・芸術活動がイスラム教的であるか、またどのような影響を社会に及ぼすか検討し活動範囲や条件を定めるのだ。エルシャドの基準は政権交代に合わせて多少変動する。

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「金曜日の午後に」により

さて、今回日本に来日されていた女性監督モナ・ザンディの作品「金曜日の午後に」は、2005年ハタミ大統領政権時に撮影許可を得て2006年2月第24回ファジル映画祭にて上映そして受賞したが、イランの映画館で公開されたのは5年後だった。それは、2006年に穏健派で知られていたハタミ政権からアフマディネジャド政権に政権交代がなされ、映画上映の許可が得られなかったためだ。2006年の2月にファジル映画祭での上映が許されたのは大統領の交代に遅れてエルシャドのトップが交代されていなかったからである。

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「金曜日の午後に」により

ここまで政府の許可を得るのに苦労をした「金曜日の午後に」は、それが女性監督の作品である事以上にその内容が波紋を呼んだ。本作品は16歳の時に親戚にレイプされ妊娠し父親に絶縁された女性が主人公。身寄りの無い女性が巨大都市テヘランで生き抜こうとする葛藤と努力の姿がドキュメンタリータッチで描かれている。この事からも、モナ・ザンディ監督のイラン人女性への関心そして問題意識の高さが伺える。

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「金曜日の午後に」により

監督は1979年イラン革命後のイラン人女性監督を政権交代そして文化的成長に応じて三つの世代に分ける事ができると語った。第一世代のイラン人女性監督は、革命後のイラン社会において女性の芸術活動がタブーであった環境下で勇敢に、家族そして社会の批判と戦い女性の活動の可能性を広げたパイオニアである。第二世代は、第一世代が築き上げた環境を活かしイラン国内で触れられることのなかった問題にクローズアップし、女性監督のイラン社会への影響力を高めた世代。

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「金曜日の午後に」のモナ・ザンディ監督

そして第三世代である今は、イラン国内に限定せずに世界的に普遍的な問題を取り上げる事で、イラン人女性監督への国外からの注目が高まりつつある。モナ・ザンディ監督が指摘したように、現代のイラン人女性監督は精力的に活動している。例えば、トランスジェンダーとその家族の葛藤を描いた「鏡をみつめて」(2011)は、女性監督ネガー・アゼルバイジャニの作品で、2013年関西クィア映画祭でも上映された。この作品は、イラン国内の問題に限らず様々な文化圏でトランスジェンダーが直面する問題を描いている。このようにイラン女性監督の映画は世界を舞台に表現するようになってきているのである。

Text: Sevin Matsushita

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