白木麻子

PEOPLEText: Setsuko Hori

2013年5月よりベルリン、クンストラーハウス・ベタニエンに、日本人アーティスト白木麻子が滞在している。クンストラーハウス・ベタニエンは、ベルリンの中心から南下し、トルコ人やアーティストが多く暮らすクロイツベルグにあり、もとは病院だった古い施設から、現在では元照明器具工場だった建物に場所を移転し、アトリエやギャラリーを併設したアーティスト・イン・レジデンスとなっている。毎年、世界中から若手アーティストが派遣され、実際に様々なジャンルのアーティストが滞在し若い才能が交錯する、世界でも屈指のアーティスト・イン・レジデンスであり、それらの活動は常に注目されている。

白木麻子の作品は、シェーカーの家具のような美しい印象を残しながらも、非常に面白い視点を私たちに語りはじめる。偶然が必然の出来事と考えるのに少しだけ似ている。例えば、あなたの擦り切れてしまった洋服の、その裂け目のフォームやプロセスに注目したとき、その裂け目は、あなたの身体の一部と繊維との接点であり、両者の摩擦で少しずつ薄くなった形跡である。そのもの本来の名前や用途を無視し、その裂けた繊維の塊のフォームをオブジェと見なすような作業を、彼女は作品として成立させている。関わりを持った出来事の両者を写し出す鏡のように技術と道具を扱いながら、生まれる一期一会のフォームとそこに広がる空間に、白木麻子の作品は存在する。

多くのアーティストを惹き付けて止まない街ベルリンで、そしてベタニエンで、作品を通してコミュニケーションし、アーティストとして黙々と挑む彼女へ、日々の様子や制作活動についてなど、いくつかインタビューした。

白木麻子
Photo: Sylvia Steinhäuser, Hair, Make up: Miyuki Oya

ある一日どの様に過ごしますか?

現在私がいる、クンストラーハウス・ベタニエンのスタジオで一日を過ごすことも多いですが、作品に使う木材の加工に機械作業を行なう時はドイツアーティスト協会、BBKが運営する彫刻工房へ朝から出かけます。両手いっぱいとリュックサックに道具と材料を詰め込んで、大荷物で地下鉄に乗って出かけます。以前、3m以上もある木の板二枚を地下鉄を使って運んだことがありましたが、日本では人目を気にしてできなかったことも、こちらでは他人のする事に互いが干渉しないので、大胆なことができてしまったり、色々と自分の意志でできることが増えたような気がします。むしろ、必要なときにみんな手を貸してくれたり電車に乗せるのに知恵を貸してくれたりもして、そこでコミュニケーションが生まれたり、そんなこの土地ならではの人との距離感が心地よいです。
そして、いつも行くキオスクやスタジオ近くのピザ屋のおじさんと、窓越しに笑顔で挨拶を交わしたり、細やかな出来事が一日を前向きにしてくれます。

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「between 0 and 2」白木麻子, 2013, ナラ、チェリー、綿リボン, W 2,300 × H 2,100 × D 2,450 mm, Photo: Asako Shiroki © Asako Shiroki

どこでどの様に作品のアイディアが沸きますか。作品を通してしたいことは何ですか。

私の作品は主にスタジオベースの作品なので、制作過程で計画に向かいながらもそこから脱線して予定とは違う到着点が見つかることも多く、またそれが次の作品を作る動機となったりもします。
スタジオに転がっている道具や材料などが空間を作るということがあって、ただそこに在るという無目的な存在の強さに強烈なインスピレーションを得て作品にすることもあります。それは制作空間のみではなく展示空間でも生活空間でも同様に起こりうることだと思うのです。
空間に触発されて展示のイメージが湧くということも多いです。空間を支えている駆体や壁や光や影がそこに置かれたオブジェクトの持っている中心的な軸に触れた時、空間に見えないグリッドが出現して、そのグリットとオブジェクトとが接触する事で空間が質感を帯びたように見えてくる事があります。例えば、違う言い方をすれば、空に偶然2つの飛行機雲が交差した時、そこに白いグリッドが出現して広さと深さのある空間を見せたり。またそれと水平垂直の関係にあるもの、景色の一つ一つがまるで関係を持っているかのように見えてくる。そんなことにも近いのだろうと考えています。
私の作品に脚の欠けた椅子が連続している作品があるのですが、脚が欠けたことによって水平垂直のバランスを失って、本来の椅子としての機能である安定感と引き換えに、斜めの軸が空間の強度を得るための筋交として機能する作品があります。(写真下)
私の作品はそこに空間があることを実感したり、なぜそこに今在るのかという存在を知るためのプロセスなのです。オブジェクトを作りながらもその実態ではなくそれを成り立たせている周囲を見たくて作品を作っています。

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「in the grid 01」白木麻子, 2012, チェリー, W 1,050 × H 520 × D 800 mm, Photo: Asako Shiroki © Asako Shiroki

常に、アーティストの視点で生活していますか?

生活空間は私にとって気付きの宝庫です。それが例えば、食卓で起こる事でも洗濯物を干している時でも、身の回りにはものや形、それに付随する行為が溢れているので、全く無関係に思える出来事の最中にも作品がふと見えてくるということがあります。その出来事が作品と意味を全く異にする事であればあるほどそのギャップに興味を惹かれます。

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「再生される世界―生活の悟性」白木麻子, 2011, gallery21yo-j, 東京, Photo: Tadasu Yamamoto © Asako Shiroki

どのように作品を制作していますか?

私の作品は、木材を入手し製材を行なうことから始めます。それは形が立ち上がる、出来るだけ深層の部分で脱機能としての選択を私自身が行ないたいと思うからです。一見すると用途を持っているかのように見える形も、用途としての機能性を失った所から形が立ち上がっています。
ベルリンに来た当初、作品を作る材料を購入する場所、運搬方法など色々と分からないことがあったので、まずは道に落ちているもの、落ちている壊れた家具を拾ってきてそれを材料として扱うことから始めました。でもそれは結局、今まで私が行なってきた制作とは全く異なるプロセスと思考なのです。既に椅子として用途を持ったものを、逆算しながら材料にしてくという作業と、材料に形としての選択肢を与えながら作品をつくる事では、アウトラインとしての形は似ていても全く異なるコンテキストによって成立しています。
そして、私の作品はあくまで私が作品の完成する所を決めますが、制作過程では作品が私を飛び越えたり、私がそれを追い越したりして、作品と私はアクティブな関係で成り立っています。
それぞれの作品の完成がありながらも、いくつかの作品が連鎖的に繋がっていたり、作品の前後周囲に何らかの関係性を持った常に過程にあり続ける作品、つまりは終わらない作品とも言えるかもしれません。

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Photo: Sylvia Steinhäuser

なぜ木を選んで制作していますか?

木材の加工には、電動工具であれ手道具であれ必ず道具が必要になってきます。私の場合、その方法の一つとして日本の伝統的な木工技法や道具などを扱って制作していますが、それは作品を作る上でのプロセスや運動、行為として扱っていて、技量を見せる事とは異なります。
むしろ、それに関わる中で現れてくる手癖やネガとポジの関係で成り立ってくる形のリフレクションなどに関心があり、一見特別な方法のように見えて、異なる層への交通が可能な哲学として捉えています。
扱う素材や技法は本質の外側にあって個人のアイデンティティーではないのだと、ある程度の距離感を保ちながら制作しています。
日常の中で、人がものに対して行なう行為や、その逆にものに扱われて行なう人間の行為もまた、私にとって制作上の技術と境なく同様に技術と言えます。
こうした、誰にも所有されていない日常の中の技術、「匿名的な技術」を意味する「anonymous techniques」をテーマに作品と平行しながら、作品のためのソースとして写真を撮り溜めています。

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Photo: Sylvia Steinhäuser

海外、ベルリンでアーティストとして生きることで、日本と違うとしたら、それは具体的にどのようなことですか?それがどう白木さんに影響しますか?

母国語で思考する作品と、異言語を通してつくる作品では自ずとコンテキストが変化していきます。
思考、価値観、文化、感覚、ものの形などもちろん似通った所もたくさんありますが、一見似て見えるものも全て言語同様、自分の知っているそれとは異なっています。
この違和感みたいなものが、私が作品を通して行なおうとしている事と近く、アウトラインとしての形とその背景にある事とのズレみたいなものが作品に現れ出たら面白いと思っています。
母国語とは異なる言語を持ったものを扱ってそれに呼応して制作していくというのは、今後の私自身の作品や制作へのアティチュードにも影響して行くので、これからどのように作品が変化して行くのか私自身興味があります。

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Photo: Sylvia Steinhäuser

ベタニエンの特色や、同僚たちの様子を教えてください。

ベタニエンは制作のためのアトリエとしてだけではなく、作家の殆どがこのアトリエを住居として生活をしています。作品だけでなくお互いの生活からよく見えるので、どうしてこの人がこういうものを作ろうと至ったのかという経緯が、作品からではなく人から作品が見えるというのがレジデンスの大きな特色だと感じました。他の国の作家たちは各国の文化庁の支援を受けて選ばれてきていますから、キャリアを積んできた作家たちばかりなので、日々緊張の連続です。でもそんな人たちが私の持っているスキルの部分だったり、お互いの得意とする部分を知っていることで、特にコンセプトベースの作家たちから作品を実現するには具体的に形をどう組上げていったら良いのかという質問を受ける事もあり、アドバイスをし合う中で彼らの考え方を学ぶ場面が多くあります。他国の作家が作品に至るまで、どういうプロセスを積んできたのかというようなことや、異文化による思想的な差異を日常の中で垣間みることができるのです。そして、みんなベタニエンを拠点にしながら展覧会などのために世界を飛び回っていて忙しそうですが、日常も豊かに楽しんでいます。
ここで出会った作家達がプログラムを終了した後も、それぞれに世界中で活躍し、互いにエールを送りあえるということがとても励みになります。

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ASAKO SHIROKI REPLAYING THE WORLD

今後の展開、これからの制作活動について教えて下さい。

こちらに来て気付きはたくさんあって、やれる事とやりたい事が色々あります。その一つずつ実行して行きたいですね。
2014年の1月23日からクンストラーハウス・ベタニエンのギャラリースペースにて展覧会を行います。6月には日本での展覧会もありますので、ぜひこちらもご覧いただければ嬉しいです。

あと、2014年の3月にクンストラーハウス・ベタニエンから白木麻子のカタログが出版予定です。今年9月にもこちらベルリンで「REPLAYING THE WORLD」というカタログを制作しましたが、更にベルリン、ニューヨーク、日本ベースのキュレーター達のテキストなどを含むカタログとなります。日本での販売も予定していますので、ご覧いただける機会があれば嬉しいです。
随時予定等を更新しているので、詳しい情報は私のウェブサイトをご覧下さい。

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Photo: Sylvia Steinhäuser

お話を伺う迄は、日本のあの美しい工芸品やシェーカーの家具のようで、家具ではない不思議な印象をずっと持っていました。他に類の無いような白木麻子の作品に、何が潜んでいるのか、本当に興味がありました。日本で美術館へ行く時間もないような多忙な人々にも、こういうアートの視点や鑑賞する面白さをぜひ、知って欲しい、興味を持って欲しい!と思いました。これからの活動をとても楽しみに応援しています。今日は、本当にありがとうございました。

白木麻子個展「On the Floor, Behind the Window」
会期:2014年1月23日~2月16日
時間:14:00〜19:00(月曜休館)
会場:クンストラーハウス・ベタニエン・エキシビションスペース
入場料:無料
主催:Künstlerhaus Bethanien
http://www.bethanien.de

新鋭作家展 第3回優秀者 白木麻子・大和由佳
会期:2014年6月7日~6月22日
時間:10:00~18:00(月曜休館)
会場:川口市立アートギャラリー・アトリア
入場料:無料
主催:川口市教育委員会
http://www.atlia.jp
アーティスト・トーク:2014年6月15日 参加無料(当日先着順)

白木麻子
2008年、東京藝術大学大学院博士課程美術専攻修了。木工芸初の博士号を取得。2013年、平成24年度 ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ・ベルリンに拠点を移し、クンストラーハウス・ベタニエン(ベルリン)のインターナショナル・スタジオプログラム レジデントアーティストとして現在滞在中。
http://www.asakoshiroki.com

Text: Setsuko Hori

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