笠見康大

PEOPLEText: Satsuki Miyanishi

昨年はトーキョーワンダーウォール2012でトーキョーワンダーウォール賞を受賞するなど札幌を拠点に、全国に活動を広げているアーティスト笠見康大。6月に行われたワンダーサイト本郷での個展に引き続き、札幌のCAI02にて個展「光円錐とその他」が行われた。前の回展覧会同様に展示された迫力のある作品や新作も発表されたこの展覧会に際し、作品に表現されたもの、込められた意志などについて詳しくお話を伺うことができた。

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今回の展覧会のコンセプトを教えてください。

私は絵描きで主にアトリエで絵を描いています。コンセプトと言えるようなものはありませんが、個展のタイトルに「光円錐とその他」とつけました。光円錐とは光の速度を基準にした時空図です。テキストに載っていた「現在に影響を与える過去の出来事と、現在が影響を与える未来の出来事は光円錐の内部におさまる」と言う言葉が、光に支えられている絵画にも共通するなと思ったし、絵を一つの出来事として捉えているのですが、光円錐の内部に収まらない不確定性を孕んでいるとも考えているのでその他としました。

見ることは透視図法に束縛されているようにも見えるし、見ないことは過去の出来事に束縛されているように感じる。そのどちらでもない見えてしまった事、そのどちらでもある見えてしまった事、これらと向き合いながら絵を描いています。見る事と見ない事を真ん中で支えている身体、そこのイメージに興味があります。

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象徴的な作品から何か意思のようなものを感じますが、作品の着想はどこから得ていますか?

作品の着想は、私が生きている世界、絵画が成立してきた世界、興味のある本の中や新聞の中と様々ですが、絵描きにとって一番大切なのは描くことだと思っています。描く行為、描く経験のなかで描く動機や着想を発見して行く事が私にとってとても重要なことです。

カンディンスキーが「無限の霧」のなかに飛び込んだように、クレーが「自らの心臓に従って」一歩ずつ前に進んだように、私も絵の真ん中に飛び込んで一歩ずつ描き進んでいきたいと思っています。

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「自分と世界の間にある見えない存在、メタレベルの構造を、絵を描くという行為の中で出現させようと試みている」ということですが、それはどういったものですか?

「自分と世界の間にある見えない存在、メタレベルの構造」とは、私が認識できるイメージを裏側から支えている構造の事です。「それ」を成立させている見えない構造の事。

様々な経験を通して私たちは不可逆性を認識していくと思うのですが、ある大きな断絶を伴った不可逆性を通して、私が気付かなかった時間が流れはじめます。それは時間と空間の関係が一様ではなくて多様であり、レイヤーとなって一度に現れ当惑し、私が見て来たものは、まさに一点透視図法の様な一つの出来事でしかなかったことに気付かされます。

一つの関係性が終わる時、見えなかった様々な構造がむき出しの鉄骨のように突き刺さってきて、このような心持ちの時にビルの屋上にある大きな看板が眼に入り、その巨大な平面を裏側で支えている鉄骨の姿が非常に強く私に迫ってきました。この看板の構造から、私が認識できるイメージの裏側にはそれを実際に支えている確かな構造があるのではないかと思うようになりました。

そしてこの構造の見えなさを安易な物語にすがるのではなく、描く行為のなかで強い意志とともに立ち上がらせようと思いました。現在に抑圧されたものが無意識を構成し新しい欲望を発生させているのなら、抑圧された風景の断片や感情、認識できない内的欲求が、描く行為のなかでデジャブとして現れるのではないかと思っています。

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