NIKE 公式オンラインストア

MOTアニュアル 2012「風が吹けば桶屋が儲かる」

HAPPENINGText: Miki Matsumoto

その他、ナデガタ・インスタント・パーティ(中崎透、山城大督、野田智子の3名で構成されるアーティスト・ユニット)は、団塊世代による合唱団結成を企画し、そのドキュメンタリーを映像インスタレーション形式で提示した。

一つの大きなイベントを他者を巻き込みながら作りあげるというプロセスベースの作品で知られる彼らは、今回「現在の日本をつくりあげる上で、大きな役割を担った団塊世代の人々に、詳しく話を聞いてみたい」との動機で取り組んだという。

06_NIP.JPG
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子) 《カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW》 2012年

また、演劇や小説の手法を取り入れ制作を行う佐々瞬は、大規模なインスタレーションと映像、日記形式のテキストから構成される3作品を展示した。東日本大震災で亡くなった友人との思い出を元に作り上げた作品「それらの日々をへて、あの日がやってくる」では、友人との思い出を綴った手書きのメモ用紙が展示室の壁一面に貼られ、会場中央には、棺桶に見立てたテーブルが設置されている。

会期中に行われたパフォーマンスでは、その空間をセットとして用い、作家本人が過去を回想し、時に棺桶の中の友人と言葉を交わす中で、メモ用紙に綴られた文字に修正テープを施し、新たな言葉を上書きする佐々氏の姿があった。過去や記憶は固定化したものではなく、現在との兼ね合いによって変化しうる、極めて曖昧な存在だと示すかのような作品だ。

05_sasa.JPG
佐々瞬 《それらの日々をへて、あの日がやってくる》 2012/2012年

個人的な深読みにすぎないかもしれないが、冒頭に引用した展覧会趣旨文にある「多くの人が同時に体験する大きな一つのできごと」という言葉から、先の東日本大震災(並びに以降の日本の状況)をふと連想した。画一化した行動に統御された社会より、異なる主義主張が共存する社会の方が遥かに健全ではある。しかし、大した議論もなく「みんな違ってみんないい」で済ませてしまうのは、画一化された行動を許容するのと同じくらい、危険な行為と言えるのではないだろうか。

展覧会の開幕以降、Twitterなどのソーシャルメディアで活発なやり取りが交わされ、議論のプラットフォームとしての役割を積極的に果たそうとした本展覧会からは、他者とのどのような関わり合いが適切か、という問いが優しく吹きかけられているように感じられた。7組の作家と一人のキュレーターがそれぞれに、且つ協働して巻き起こした風が、今後どのように絡み合い、どこまで吹き続けるのか。会期が終了した今からの展開が大いに気になる展覧会だ。

MOTアニュアル 2012「風が吹けば桶屋が儲かる」
会期:2012年10月27日(土)〜2013年2月3日(日)
開館時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、年末年始
会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F
住所:東京都江東区三好4-1-1
観覧料:一般 1,000円、大学生・65歳以上 800円 、中高生 500円、小学生以下無料
TEL:03-5245-4111(代表)
https://www.mot-art-museum.jp

Text: Miki Matsumoto

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE