リー・ミンウェイ展「澄・微」

HAPPENINGText: Miki Matsumoto

「澄・微」。この2つの文字から、あなたはどんな風景を思い浮かべるだろうか。

台湾出身で、現在はニューヨークを拠点に活動するリー・ミンウェイ(李明維)の日本初個展に掲げられたこのタイトルは、彼の作品に漂う空気感を見事に体現している。

13歳のときにアメリカに渡り、同地にてテキスタイルおよび彫刻を学んだリー氏は、第3回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(1999年)やニューヨーク近代美術館での個展(2003年)、第50回ヴェネチア・ビエンナーレ(2003年)に参加するなど、国際的に活躍するアーティストだ。

東京都銀座にある資生堂ギャラリーにて開催されている本展「澄・微」では、「Fabric of Memory(記憶の織物)」プロジェクトを中心に、「100 Days with Lily(百日間の水仙)」「The Letter Writing Project(手紙のプロジェクト)」という代表作3点が紹介されている。

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Fabric of Memory(記憶の織物), 2012. 撮影:加藤健 写真提供:資生堂

会場に入ってまず目に入るのが「Fabric of Memory」だ。2006年のリバプール・ビエンナーレで発表されて以来、世界各地で行われているこのプロジェクトの特徴は、展示する「作品」を一般に公募する点にある。
「あなたの家に眠っている、大切な手作りのテキスタイル作品を見せてください」 ―― 誰がいつ作ってくれたのか、どういうふうに使われたのかといったエピソードが綴られた文章と写真を元にリー氏が数点選出し、特製の木箱に納め展示するという仕組みだ。

募集は展示が行われる土地の市民を対象に行われるため、各国の文化や地域性、ひいては歴史を色濃く反映するが、今回は着物を中心に、コート、キルト、ブローチやぬいぐるみなど計16点が選ばれた。第二次世界大戦や東日本大震災といった大きな災禍をくぐり抜けてきたものから、父親にアップリケをつけてもらったことを誇りに思う、まだ幼い少年が応募してきた幼稚園のスモックまで多種多様だが、どれも身近な者の健康や将来を願い、一針一針丁寧につくりあげられていることが見て取れる。

作品はそこに込められた柔らかな思いをそっと守るかのごとく木箱にひとつずつ丁寧に納められ、会場中央にある大きな木製の台のうえに配置される。来場者は靴を脱いで台に上がり、箱に掛けられたリボンを外して蓋を開け、蓋の裏に記されたテキスト(その品にまつわる物語)と照らし合わせながら、モノに潜む歴史や記憶、様々な感情を紐解く仕掛けになっている。

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Fabric of Memory(記憶の織物), 2012. 撮影:加藤健 写真提供:資生堂
箱をあけると、白いオーガンジーの下に手作りのテキスタイル作品がひとつ、ひっそりと納まっている。

リー氏の作品は、いずれも自身の個人的な体験を着想源にしているのが特徴だが、この「Fabric of Memory」が生まれるきっかけは彼の幼少時に遡る。幼稚園の入園式の日、両親と離れることが不安で堪らなかったリー氏に対し、母は「この上着をお母さんの代わりだと思いなさい。そうすれば一日中そばにいるように思えるから」と彼が着ていた上着を指し示し、彼に大きな勇気を与えた(リー氏の母は、息子が着る服をほぼ全て手作りしていたそうだ)。

今回展示されている様々な作品も、そこに込められた思いの力によって、受け取ったものに多くの勇気や励ましを与えたものばかりである。それらのエピソードは本来であれば身近な者のみでシェアされるはずのものだが、作品という形で人々の目に触れ、誰しもの胸に宿る「記憶」という共通項を介することによって、鑑賞者の内に様々な感情を呼び覚ます。

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