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第15回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

アート部門の審査委員会推薦作品に選ばれたニクラス・ロイの「Electronic instant Camera」も来場者参加型のメディアとして人気を集めていた。会場に設置されたのは、モノクロの旧式ビデオカメラと感熱式のレシートプリンターを組み合わせた撮影装置。カメラの前に立って3分待てば、レシートに印刷された自分の顔が、ポラロイド写真のようにカメラからはき出される。ローテクとハイテクが調和した、遊び心に溢れた作品だった。

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ニクラス・ロイの「Electronic instant Camera」で撮影された来場者の写真

このほか、広島で国際アニメーション映画祭の開催に尽力し功労賞を授与した木下小夜子、写真家のヴィル・アンダーソンボアーズ・アロノヴィッチ小山泰介緒方範人、アーティストのSHIMURABROS.、Marguerite HUMEAU、アニメーション作家のYKBX、メディアクリエーターの佐藤雅彦 + ユーフラテスなどの作品も審査委員会推薦作品として展示され、レベルの高さが伺えた。

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「Between Light and Darkness」© Ville ANDERSSON

会期中はアーティストやクリエイターによるトークセッションやシンポジウム、ワークショップなども多く開催された。

2月29日には、開催されたシンポジウム「“マッシブデータフロー”の時代のメディアアート」では、研究者でアーティストでもある池上高志、NTTインターコミュニケーション・センター主任学芸員の畠中実、メディアアーティストの江渡浩一郎、ファシリテーターに編集者の後藤繁雄を迎え、マッシブな(大量な)データを扱う時代におけるアートの在り方について、加熱したディスカッションが交わされた。特にデータのアートへの活用についての話題の中で、池上氏が東日本大震災時のデータを例に挙げて語られたことには、重要な問いかけが示されていた。

『3.11の時に僕が問題だと思ったのは、統計的なデータを全てとったところで個別的なデータ――例えば津波が押し寄せた時に、自分の家は残ったけれど、隣の人の家は残らなかった、といったようなこと――は全部消えてしまうじゃないですか。統計上の確立というのは常に定義できるけれども、例えばそこで個人が「生きるか死ぬか0か1か」といった問題はデータ上では扱えず、いくらデータを扱ったところで「個」というものは解消されない。だけれども「個」を失ってしまったらアートは存在しない訳で、アーティストというのはそこを見つめなければならない、と僕は思うのです。』

今年は、池上氏のトークで語られた「個」の重要性に、より深い深度で気付いていたアーティストに光があてられたように思う。コミュニケーションを基本原理とした作品や、作家自身の足もと、手のひらから始まる等身大の作品など、会場全体を通して以前よりも「人の温度」が増していたような印象を抱いた。

毎年増える海外からの受賞作品も、ポエティックなものや人間を見つめ直すような作品が選ばれていた。この流れは、メディア芸術祭を、より人間を媒介とすることに重点を置いたメディアアートフェスへと導いたのではないだろうか。また、作品のカラーとしては癒し的な要素や、心に寄り添う叙情性の高い作品が多かったが、徐々に活力を取り戻すことが求められる今、来年に向けてどういった作品を作っていくのか、といったテーマが浮かび上がってきた。毎年応募者数が増えて行くメディア芸術祭。また沢山の思いが生きた作品が集まるのではないだろうか。

第15回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2012年2月22日(水)~3月4日(日)
会場:国立新美術館
時間:10:00~18:00
住所:東京都港区六本木7-22-2
サテライト会場:d-labo(東京ミッドタウン)、メルセデス・ベンツ コネクション、ニコファーレ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ
観覧無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://plaza.bunka.go.jp/festival/

Text: Yu Miyakoshi
Photos: Yu Miyakoshi

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