瀬戸内国際芸術祭 2010

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

島に向かう生活雑貨などを満載した船に乗り、一時間超。直島を経て、豊島の港にたどり着いた。そこは何の変哲もない小さな港。しかし、高松から豊島に向かう間に見える無数の島々が織り成す景色、そして古くからある民家の佇まいはそれそのものが美しい風土の風景である。

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この島の山の中、池の中に、透明なモニュメントがそそり立っている。この「トムナフーリ」という森万里子による作品は、作品名の意味である「古来ケルトにおける霊魂転生の場」というモチーフのように神秘的な作品である。宇宙素粒子の観測施設とデータを結び、超新星が爆発するとこの透明なモニュメントは光を放つ。本来なら光を感じることができる夕闇や夜にこそ、鑑賞したいのだが、もともと観光客を受け入れることが無かったこの島で、宿泊の受け入れは無い。日差しの中、鬱蒼と木々が繁茂し、水草で真っ青となった生命力旺盛な池の中にお行儀よく存在するモニュメントにどうなるのかと思いを馳せるのだった。

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浜辺にて。長い管が連なった不思議な装置の周りに人々の姿。オーストラリアのキャメロン・ロビンスによる、潮の満ち引きによって音を奏でるオルガンだ。不規則に流れる音の響きに、作品目当てで集まる人々はつい微笑ましさを感じてしまう。島々の風景と波のうねり、うねりとともに響くオルガンの音。時間がゆったりと進んでしまうような情景だ。

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港の小さな集落を散策。存在感のある石造りの蔵に誘われる。蔵の中の暗い空間、そこにオラファー・エリアソンの水のカーテン、ささやかに照れられる光が蔵の中に虹を描く。百年同じであっただろう、蔵のひんやりとした空気の中にあるささやかな虹は光そのものの素朴な美しさを感じさせてくれるのである。

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この芸術祭の終幕に、豊島では直島と同じく、新たな美術館がオープンした。そして、フランスのクリスチャン・ボルタンスキーによる、心臓音のアーカイブなど、新たな常設の現代美術プロジェクトの整備が始まっている。何もなかった島が、これから現代美術が持ち込まれることによって、何か新たなものへと変わろうとしている。島の日常の中にぽつりと佇む作品たちの姿は、そんな「開発」の前にある風景であった。

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