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欧州文化首都リンツ09

2009年、リンツはヨーロッパの文化の首都となる。
Cultural Capital Linz09
オーストリア北部の州都であり、この国三番目の都市であるリンツから頻繁に連想されるモットーは「イン・リンツ・ビギンツ」、すなわち「リンツは全てのものの始まり」という意味の言葉である。(あまり魅力的でないその背景にここで詳しく触れるのはやめておこう。この言葉はそれまで広まっていた「イン・リンツ・スティンクツ(リンツは臭い)」という句に対抗したものなのである。この工業都市で破滅的に進行していたスモッグの被害によって生まれたこの言葉は、意欲的な大気改善策によって今では過去のものとなった。)
「リンツは全ての始まり」とは、いささか野心的すぎる物の見方かも知れないが、EU加盟国が1年ごとに持ち回る「欧州文化首都」という事業への参加によって、この州都がより世間に知られるようになり、真に文化的関心の高い人々の旅の目的地として認識されるようになることを期待したい。

事実、私がこの「欧州文化首都リンツ2009」の広報事務局の文化ジャーナリストとなってからこれまで、街で企画される劇場プログラム、音楽祭、展示、特別活動など膨大な数の情報を受けてきた。あまたのイベントが年間を通して行われ、このリンツ09を要約したレビューを書くことなど不可能ではと真剣に悩まなければならない程である。しかし今回はこれらの情報に目を通し、ウィーンから1時間で行くことができるリンツを訪れ、ぜひお勧めしたいものをいくつか選んだ。

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© VS 43/Renate Gratzl, Gerda Kocher

パブリックアートを専門のひとつとする私にとって嬉しいのは、他の多くの欧州文化首都がこの分野をあまり深く掘り下げないのに対し、リンツ09では公共スペースに多くのアート作品が置かれていることである。月変わりで街のあらゆる場所に焦点を当て「今月の文化首都地域」というタイトルのもと、それぞれの地域の人々が心を込めて制作した美しく気取りのないアート作品を観光客や市民に楽しませている。

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Bellevue, The Yellow House. © fattinger, orso, rieper

7月に行われた「Zsammsitzn(一緒に座る)」というプロジェクトでは、あるマンションの中庭で、住民や希望者を対象にして社会の持つ力の活性化が試みられた。この多角的な地域プロジェクトの他にもこうした試みは数多く行われ、ある仮設住宅は人工的な光景の公園に様変わりした。この作品「黄色い家、ベルビュー」は7月から9月にかけて人気スポットとなっており、ここで文化的な会合や、料理イベント、即興的なトークショーなど様々なイベントも開催された。


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© Kunstraum Goethestrasse

同じく興味深いのは、「尊敬の都市」と題したイベント/展示シリーズを2007年から行っている美術館「クンストラウム・ゲーテシュトラーセ」の技術に裏付けられたプロジェクトである。病気のウサギ(ダー・クランケ・ハーゼ)が、慣習的なルールや社会規範を脱し、個人を排他するテーマを投げかける。ウサギのお面をかぶった人々が街の至る所に出現し(お面は「クンストラウム・ゲーテシュトラーセ」や、フォルクスガルテン庭園の中にある仮設ツリーハウスで借りることができる)、文化首都リンツのための大変面白い企画となっている。(この様子はプロジェクトブログで見ることができる。)


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© Dagmar Hoess

私にとって印象深く忘れられない3つ目のプロジェクトは「イン・シチュ」。リンツ内65箇所のスポットが、地面にスプレーで描かれたステンシルの文字によってハイライトされる。とても美的なこれらのオブジェクトのいくつかは、心がかき乱されるような内容を含み、何よりその場所で民族社会主義者による恐怖政治時代の歴史的な出来事があったという明白な記録を残す作品である。

リンツはアドルフ・ヒトラーの生涯において重要な役割を果たした最初の都市である。ヒトラーはこの付近で誕生し、ウィーンの美術大学の受験に失敗する前にこの地を訪れている。彼はウィーンよりもリンツを好み、リンツのために重大な計画を図ったのである。結果リンツ09のオーガナイザーと美術監督は、この街が欧州文化首都である年内に民族社会主義時代の出来事が無視されることを拒み、1938年から1945年の間にリンツで起こった歴史について非常にオープンにかつ謹み深い手法で触れるという決断をした。「イン・シチュ」は、この街のこうした歴史的側面を明らかにし、訪れる人々や市民の記憶に焼き付けるために制作されたプロジェクトなのである。


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Su-Mei Tse - Swing, 2007, installation view from the Singapore Biennale, 2008

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Julita Wójcik - Making things more beautiful, 2007. Photo: Otto Saxinger

OK現代美術センターは、リンツの現代美術館の中で最も大きな美術館では(そして最も高価な美術館でも)ないが、とても良質で心を打つプログラムをリンツ09のために行っている。最初の企画は、世界中のビエンナーレから集めた魅力たっぷりのセレクションで行った「ビエンナーレ・キュヴェ」。このような展示が身近な文化首都で行われるのならば、もはや世界中に広がる美術の中心スポットへ旅行する必要はない。その次に行われた展示は「フーエンラウシュ(最上の喜び)」。この展示では館内スペースを拡張し別館を作り、空の店舗やショップウインドウを建てたり(2007年)、洞窟や地下室を造ったり(2008年)した三部作の第三弾である。著名アーティスト達(アーウィン・ワーム、リキッド・ロフト、ピピロッティ・リスト、ローマン・シグネールなど)が天井を沿う通路にディスプレイを行った。

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© OK

この展示の目玉はおそらく、建物の天井の上に立てられた巨大な観覧車であろう。勇気ある来訪者はリンツの空高くから街を見下ろすという一生に一度の体験をすることができる。10月31日までの会期中、決して見逃せない。


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EarthStar: David Haines (UK), Joyce Hinterding (AU), 2009 © Ars Eletronica/rubra

リンツ09を通して行われるフェスティバルや美術イベントについて全てを書き記すこともできるかもしれないが、それでも語り尽くせない事柄も数多く残るに違いない。その中で決して忘れてはならないのが世界に認められたエレクトロニックアートの国際的祭典、「アルス・エレクトロニカ・フェスティバル」である。2009年はこの祭典の30回目にあたる。素晴らしい建築とともに生まれ変わったアルス・エレクトロニカ・センターで行われるこのフェスティバルでは、人類と、人類活動による影響で地球が初期には予想もできなかった次元へと向かっていくいわゆる「人類紀(anthropocene)」に関するトピックが魅力的に扱われている。

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Japan Media Arts Festival © Ars Electronica/rubra

これから発展を遂げるであろう新しい「人類」として、「アルス・エレクトロニカ・フェスティバル」は電子界の現状をユニークに総括する。興味深いことに日本の「文化庁メディア芸術祭」もこのリンツ09に参加、「日本オーストリア交流年2009」による、2国間の新たな友好の軌跡を残すこととなった。

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© Ars Electronica/rubra

このフェスティバルや、その他の数えきれない程多くの美術イベントによってリンツは、いま真に輝く文化首都となっている。そしてその輝きが、2009年が過去となった後でも失われぬように願う。

全てのプログラムに関する情報は、リンツ09の公式ホームページで各イベント毎にチェックしよう。

Text: Daniel Kalt
Translation: Shiori Saito

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