マテリノ(マテリアル・リ・イノベーション)展

HAPPENINGText: Tatsuhiko Akutsu

「人の体に触れるものは、やっぱり良い素材でないと」という思いから、今城メリヤスの協力の下、肌触りの良さ、素材から糸選び、サイズ調整まで細部にまでこだわり抜いた布製品も制作されている。しかし、服の制作に端材は付き物。でも、彼らは「端切れになっても、この布は気持ちがいいのです」と言い、また端材に新たな生命を吹き込む。Tシャツやストールなどの製作過程で出た端材を、パッチワークのように繋ぎ合わせて再び一枚の布にする。そして、その布を張り合わせて作られたクッションが「KOKOCHI」だ。色は本来の生成りの色だが、それぞれ柄が少しずつ異なり、視覚的にも楽しめる世界に一つだけのクッション。オーガニックコットン100%で作られた布は、触り心地も抜群に優しい。

MATE-RE-INNO

今城メリヤスでは、「吊り編み機」という特殊な機械を採用しており、それによって独特の優しい風合いを作り出している。しかし、そのこだわりが故に出る端材も多い。「どうにかその良質な端材を活かせないか」という思いから生まれた「MUSUBU」は、端材を一定の短冊状に切って、ひたすら網に結び付けて作られたラグ。その作り方を知ったとき、正直自分にも作れるんじゃないかと思ってしまった。発想を転換してみれば、「捨てる」を「リノベーション」に変えるのは、そんなに難しいことではないのかもしれない。普段何気なく捨ててしまっているものでも、よく見つめてみれば、アイディア次第で新しい価値を与えることができるのだ。

MATE-RE-INNO

マテリノプロジェクトのラインナップには、家具類も充実している。大阪にある山本工芸の製作「TUNAGU Furniture」は、薄く美しい木目の化粧板を貼った化粧合板という板の端材を材料に、チェア、スツール、テーブルなどの家具を製作するラインだ。その素材の美しさもさることながら、きらりと光るのは細部に見られる職人技だ。端材の特性上、薄い材を組み合わせて強度を作るデザイン・構造が必要で、その行程は相当な技術と手間を要する。

『最近は、タッカーと木ねじで留めてしまうような家具が多いから、自慢の道具もうでも使う機会が少なくなったよ』と語る山本氏は、マテリノプロジェクトの理念に新しい可能性を感じ、伝統工芸士としての技術をふんだんに盛り込んだ作品を作っている。また、彼は、マテリノの作品をお弟子さんたちと一緒になり制作し、技術を教え込み、次の世代へと自身の技術を伝えていこうとしている。「モノとモノ」の繋がりに、新しく「モノとヒト」「ヒトとヒト」という要素が加わってくることで、その力は爆発的に拡大していく。マテリノプロジェクトは、環境問題というものを考える時に不可欠な「人間の意識」にまで作用し、ヒトを動かす力をも秘めているのかもしれない。

人々は、本当に環境に意識を向け始めたのだろうか。最近すっかりお馴染みになった「LOHAS」(ロハス)という言葉とその概念。しかし、日本の現状を見てみると、皮肉にも言葉が一人歩きし、副意的でファッション的感覚が強くなっている感は否めない。岩本氏は『日本のこんなLOHASの現状に、デザインという新しい文脈で人々により“骨太”な力を与えていきたい』と語る。彼らの「こだわり」「アイディア」「つながり」が重なる時、そこには、人間、社会、環境を変える思いもよらない原動力が生まれるのかもしれない。

MATE-RE-INNO展
会期:2008年7月18日〜31日
時間:11:00〜21:00
会場:イデアフレイムス
住所:東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ西館地下2階
https://www.label-creators.com

Text: Tatsuhiko Akutsu

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