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知床 2006 秋

PLACEText: Junya Hirosawa

翌朝4時45分、起床。今日は雨の予報なので南風、昨日とはうってかわった暖かい朝の空気。朝焼けを期待し、知床峠は行かず知床連山が一望できる五湖の展望台に向かう。昼間の喧噪が嘘のように静かな駐車場。時々クマよけのサイレンが鳴り響く。ゆっくり夜明けの雰囲気を味わいたかったのに残念。なにより安全優先。クマが出て五湖の遊歩道が閉鎖されても観光客が行けるように設置された木堂を歩いて展望台へ。木堂の下部には電気柵が設置されている。知床の観光は狭いエリア、限られた観光ポイントに人が集まる。でもそこはクマの生息エリア、きっと最近やけに人が多いなぁと森の奥から見ているのかも知れない、世界遺産になっていいのか悪いのか…。空はうっすらと赤くなっただけですぐにグレーの曇り空になってしまった。

一旦宿に戻り、朝食を食べ、今日はどうしようかと思案していると同宿の観光客の方が知人から教えてもらった絶景ポインにいきませんか、何せクマが出るので、ということでにわか知床ガイドになることになった。森を抜け草原を歩くとオホーツクの海を見下ろす崖に出る。

風が強く白波が立ち、大きな観光船の船首さえ並をかぶっている。雨の臭いがする強風の中、たたずむ。本当に日本の風景ではなく、去年旅に出たアラスカの風景に似ていた。

今にも降り出しそうな空のもと、幌別川の河口にサケを見に行く事にする。サケの遡上はもう最終になってくる頃、身体をぼろぼろにしたサケが河口に溜まっていた。産卵を終え力尽きたサケたちも。ホッチャレとなったサケの死骸はカモメやカラスに目をつつかれ無惨な姿をさらしていた。その上に流れ着いて落ち葉がたまっていた。

このサケたちを狙って日に何度からクマたちが山から下りてくる。知床滞在期間中、何度かこの橋の上を通ったがここのクマとは相性が悪く、一回も姿を身見る事ができなかった。宿のオーナーは通るたびに見ているというのに。さて知床のサケ、遡上し自然産卵できるのは数本の川だけ。ダムや堰が作られ物理的に遡上ができず、サケマスふ化場で人工授精の為に捕獲されることがほとんど。人間が食べるサケは川に入る前に沖合の定置網で捕られて市場に出回る。知床ブランドのサケは値段が高いがそれはサケマスふ化場の事業の上に成り立っている。

世界自然遺産認定に際し問題となった50基程のダムは本当に撤去、自然産卵が見られるようになるのか。作ったものを壊すのにもお金がかかる、世界の注目が集まっている。

昼になり、雨が降り出し風も強くなり海は荒れて観光船も欠航、沖合の定置網からサケを満載した漁船も港に戻って来た。宿で昼寝かと思いつつ、羅臼側に行ってみたいとのことでおつきあい。朝見た峠下の紅葉はさっきより色が濃くなったような気がした。雨が降ると葉っぱが濃く見える。そして風が吹くと葉っぱが飛んで行く。一雨ごとに秋が深まっていく。一日ごとに景色が変わる。

知床は連山を境に羅臼側(太平洋、根室海峡)とウトロ側(オホーツク)で全く天気が違う事がある。今日もウトロ側はザンザン降りだったが、峠を越えると雨はやみ、雲間から時々光が差し込む。

しかし羅臼側が静かな雰囲気、道の駅に少々観光客がいただけで街も閑散としていた。大きなホテルもなく本当にこれと行った名所もないためか、本当に対照的な光景だった。羅臼側は半島に沿って相泊まで道路が通り地元の人たちの生活圏となっている、そのほとんどは漁業関係者。道路が通っているといっても断崖が海まで迫っていて、わずかな空間に住んでいる。そのためか山の動物たちが人家のすぐそば、いや庭先にまで出てくる。大きな牡鹿がバス停横で草を食べていた。

そして羅臼から20キロ位、道々87号線は終点に付く。『キケン 道なし!』シリエトク、アイヌ語で「地の果て」を意味する土地にふさわしい看板だ。日に何人かこの看板をみるためだけにやってくる。

目の前に広がる海は海峡、20〜30キロ先はロシア領国後島。意外な事にこの海峡には十種類上の、クジラやイルカがやってくる。カマイルカ、シャチ、マッコウクジラ、ミンククジラがその代表例。2年前は急に動き出した流氷にシャチの群れが囲まれ、ちょっとした騒ぎになったこの近くのことだった。

帰り道、イルカでもジャンプしないかと海を見ていると、突然、波間に塩が吹いた!「おおっ!クジラの登場か!」と慌てて双眼鏡を構えた。目を凝らす。また飛沫があがる。でも・・・・早とちりだった。沖合にはサケの定置網が設置され、目印の浮きが沢山ある。その浮きに、山から吹き下ろす強い突風があたり、飛沫となって飛んでいたのだった。残念!

もっとも羅臼沖は強風で有名な所で、最近(2000年)でも、12月24日に、風速55.9mを観測しているくらいだ。1980年には風速60mまで測れる風速計が振り切れたそうだ。

羅臼に戻り、峠を登り、視界数十mの知床峠を通り、ウトロ側に出ると、昼間の雨は上がっていた。薄暗くなり、鹿の群れを見ながら山を下る。市街地に近づくと、幌別川の橋の上にバスが二台程、ハザードランプを付けて停まっている。ヒグマの親子が川に出てきた後だった。う〜ん、知床の熊はなかなか会えないのか、とちょっと諦めムードになったが、実は翌日からのクマラッシュの前兆だった。

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