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「マインド・スペース」展

HAPPENINGText: Chris Lee

2003年にオープンした、サムスン美術館の杮落としとなる展覧会「マインド・スペース」は、現代美術で長い間見過ごされてきた精神性の問題に取り組んでいる。伝統的に宗教的感情の避難所または信念の世俗的な現れである芸術は、20世紀にその本来の機能を失った。芸術の重要性と概念性に固執するモダニズムと、文化的、政治的文脈化を求めるポストモダニズムを経て、現代美術は主に現実の客観的な鏡として機能してきた。

ヴォルフガング・ライプ
Wolfgang Laib, Somewhere Else-La Chambre des certitudes

本展でフォーカスされているのが「マインド(心、気持ち、意思の意)」。精神と体の中間点としての「マインド」を、合理的かつ主情主義的に表現している。「マインド」は、体の内側で体感するもの。その時に直面している問題と精神の中心的存在であり、体と魂の両方に影響を与えるものだ。また、私達が常に気にかけていたり、洗練できたりするものでもある。しかしそういった「マインド」を覚醒するということには、更にもうひとつ、文化的な役割があるのをご存じだろうか。それは、現代美術は決してそういった「マインド」を犠牲にしてはいけないということだ。外界につながる導線のように、人それぞれのセンスが錯乱しているような現代では、その役割の重要性は高い。心の中で方向付けられている考え方を通すということは、結束やバランスというセンスを獲得するためには、絶対的に必要なのである。

リー・ミンウェイ
Lee Mingwei, The Letter Writing Project (Kneeling Booth)

このような動きは、だからと言って伝統的な西洋の理性論の復活を訴えているわけでは決してない。しかし、東洋的な考え方に対して、大きなアプローチをかけているのは確かだ。東洋的な価値観の上で何か興味があることを紹介することが、まだまだ補足的な私達の物質主義的文明見地から影響を受けていると言ってもいいだろう。そしてまた、私達の生活の至る所でそれが広まってきている。この感覚では、今回の展覧会に参加しているアーティストが、東洋文化に深い理解を持っているとは到底考えられないだろう。また、彼らの作品が瞑想的でスピリチュラルであるという事実が、哲学的な理想を求める抽象作品とはまた違った、根本的な差異を示唆しているのだ。今回の参加アーティストの作品からは、肉体的な経験(視覚的だけではなく、嗅覚、触覚的な体験も含む)に通じる道しるべのようなものが感じられる。人は誕生し、やがては死ぬという考えから、精神的な世界へと続く、それぞれの旅路が表現されているのだ。

キム・スージャ
Kim Sooja, A Needle Woman

内に秘めた想い、期待、集中力、生と死についての考え、癒し、そして精神の平和。これらは全て、マインド・スペースにとっては、カギとなる言葉だ。まるで仏教徒がそう教えを説くように、マインド・スペースは概念や理論をひとつにまとめたものというよりはむしろ、ぽっかりと開いた空間を意味している。今回の展覧会の作品に課せられているのは、メディア的な役割のみ。来場者がその作品を理解、判断し、作品とは関係ないところで、それぞれが何かを汲み取ることで、その役目のほとんどを達成することができるのだ。視覚的な理論においては完全に主体的でありながらも、すでにそれ自体が絶滅の危機に瀕しているような現代美術と比較してみると、今回マインド・スペースで紹介している作品は、作品自体を正当化するために、言葉によるコンセプトや哲学的な動きに頼っている傾向がある。しかしその代わりと言っては何だが、私達がアートに求めるものを、アーティスト達はそれぞれのユニークなやり方で補っているのだ。自分の感性や気持ちに導かれるように、来場者は自らをじっと見つめ、静かに、そして自らをいたわる機会を、この展覧会で得ることができるのではないだろうか。

Mind Space
会期:2003年2月28日〜5月18日
時間:10:30〜18:00(月曜日休館)
会場:Samsung Museum of Modern Art
住所:60-16 Itaewon-ro 55-gil, Yongsan-gu, Seoul, Korea 04348
TEL:+82 (0)2 2014 6901
http://www.samsungmuseum.org

Text: Chris Lee
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Courtesy of Hoam Art Gallery © the artists

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