マシュー・バーニー「クレマスター」展

HAPPENING

ニューヨークに住んでいる者として、ひとつ認めなければいけないことがある。それは、この街にいるからといって、そうめったに美術館などに脚を運ばないということだ。例えば、グッゲッンハイム美術館メトロポリタン美術館ニューヨーク近代美術館クーパーヒューイット国立デザイン美術館ホイットニー美術館などなど、ニューヨークにあるアートやデザインに関する美術館の名を挙げればキリがない。最後に僕が美術館に行ったのは、何ヶ月も前のこと。しかも、遠くから友人が遊びに来たので行ったまでのことだ。

グッゲッンハイム美術館(天才建築家フランク・ロイド・ライトが設計した美術館。後期ライトの代表作で、エレベーターで最上階に上がり、斜路を降りながら作品を鑑賞する。)に関しては、最後に行ったのはもう3年以上も前のことになってしまう。「ワールド・オブ・ナム・ジュン・パイク」という展覧会を見に行ったのだが、僕が思い出せる中でも、その展覧会は最も素晴らしい展覧会のうちのひとつ。同美術館では現在、マシュー・バーニーによる「クレマスタ−・サイクル展」が開催されているが、この展覧会もなかなか見応えのある内容になっている。

僕がマシュー・バーニーの作品に出会ったのは、これももう何年も前のこと。彼の映画「クレマスター2」を見たのだ。彼のことは以前から聞いたことがあり、なぜか彼が国際的なショーに登場する度に、彼の作品を思い出すことがあったのだ。ある晩僕は、友人に映画に誘われた。その時に彼が「あぁ、バーニーなら、こういったアート色の濃い作品を作るのに、何百万ドルっていうお金をもらっているアーティストだよ」と教えてくれたのだ。映画を見終わった後、それまでいかに僕はどんなものを作るべきかまったく無知だったかを思い知らされた感じだった。物語はとても抽象的で、ややゆっくりめ進行にもかかわらずわかりずらい。そして、想像性においては、鮮明で、超現実的、そして抜群に美しいのだ。

「クレマスター」は、 5シリーズまであり、 すべて1994年から2003年までに制作されている(しかし、連続的に撮影されてはない)。そして今回の「クレマスタ−・サイクル展」では、この作品全体を映画風に紹介しているのだ。また、作品それぞれに関連したバーニー自身制作によるインスタレーション、写真、彫刻、ドローイングも展示されている。美術館に一歩足を踏み入れると、ビジターはこれらの作品をじかに体験できる。一番最近撮影された「クレマスター3」の一部が、このグッゲンハイム美術館で紹介されているのだが、美術館はギャラリー・スペースというだけではなく、映画スタジオさながらの雰囲気を醸し出しているだ。美術館内を歩き回ることで、ビジターは映画のセットを体験できるようになっている。

細部に至るまで、美術館全体がクレマスターの世界。不思議でもあり、ゴージャスな彫刻や像が、いつもと違う超現実的な空間を作り出しているのだ。写真立てやドローイングが飾られているケースでさえ、映画やイラストレーションで使われたものと似た素材で、丁寧に作られている。

僕がグッゲンハイム美術館で最後に見た展覧会と同様、今回のこの展覧会には完璧に圧倒されてしまった。多くの美術館が単に作品をディスプレイするだけなのに対し、バーニーやパイクがそうだったように、グッゲンハイムでは、空間そのものをアートに変えてしまうことが可能なのだ。フランク・ロイド・ライトにしてみれば、この建物がこのように使われるだなんて思いもしなかったことだろう。しかし、もしそんな風に想像していたら、それこそ彼の天才的な一面なのだ。

Matthew Barney – The Cremaster Cycle
Guggenheim Museum

会期:2003年2月21日〜6月11日
会場:グッゲンハイム美術館
住所:1071 Fifth Avenue at 89th Street,New York, NY, USA
TEL: +1-212-423-3500
www.guggenheim.org

Text and Photos: Rei Inamoto From Interfere
Translation: Sachiko Kurashina

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