「時間旅行」展 – TIME! TIME! TIME!

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

ほとんどの展示は、ハイテクとローテクが入り混ざった体験型の作品。科学のムズカシイ理論のエッセンスをよりわかりやすく、楽しくデザイン化したものばかりで、もちろん大人も楽しめる。知覚様相(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、体性感覚など)によって刺激処理の時間に差があることを利用した「聴覚による錯時間」では、聞こえる音の数によって瞬くフラッシュの数が違ってみえる不思議な錯覚を体験。

2人の体験者の心拍が宙に美しい光の螺旋を形作る神秘的な「心拍時計」、一日のDNAの働きと人間の活動の関係を一目で見られる「体内時計-24時間DNA」など、身体宇宙の時間を旅行する作品がある他、外宇宙の時間をわかりやすく体験できるものもある。イームズの「パワーズ・オブ・テン」を思わせる、ビックバンから150億年後の今の宇宙、そして現在分かっている限りの未来までの時間をズームアップする「時間全史」、高速になれば時間の進みは遅くなる、という相対性理論を自分で時計を持って走って体験する「相対性理論で走ろう」、星の光の旅を時間差で転がるボールで追体験する「光の旅」など、複雑な理論を単純な原理で視覚化した、思わず苦笑するものも多い。

中でも子供たちの目をひいていたのが、会場中央奧にあるゾウとウマとネズミの布製のオブジェ。身体の大きさと心拍数が違う動物では、持っている時間が異なるという理論を説いた名著『ゾウの時間、ネズミの時間』がベースになっている。それぞれの鼓動にあわせて音と光が点滅するしくみで、ネズミのせわしないスピードに比べて、ゾウはとてもゆっくりで低い音。ウマはほぼ人と同じ。3つの鼓動がユーモラスな三重奏を奏でていた。ところが同じ会場にある無響空間は、もともと全く音と光という情報を遮断した中で3分の長さを体験するというものだったが、遮音が不完全で、かすかにゾウの鼓動が聞こえてしまうという事実。 ただ、それもゾウの3分を体験するいい機会と思えばご愛嬌か。

中でも私のお気に入りは、中央に据えられたなんの変哲もない四角いベンチ。しかし座ってしばらくすると、非常に遅い速度でベンチが移動していることに気がつく。“時間はいつの間にかすぎている”、というわけ。ユーモラスでクレバーな作品だ。

作品を見て回った体験のほとんどは、1.理論を聞く、2.体験する、3.納得する、もしくは2と1が逆のパターンだった。いい意味で単純でわかりやすく、見えないものを視覚化するといったデザインやアートの原点を徹底したおもしろ味がある。その分、もう少し会場構成にお金をかけたら、ビジュアル的にもっとインパクトある作品がつくれたかなとも思う。科学理論を追うだけでなく、さらに新たな発見をうながす作品がもっとあってもよかったかもしれない。ともあれ、無邪気に科学の先端に触れるには絶好の展覧会。会場をあとにしたときに、面白くてあっという間に時間が過ぎてたね!というおまけの体験も忘れずに。

*クリエイティブ クルー:石黒猛、岩井俊雄、クワクボリョウタ、島田卓也、鈴木康広、瀬藤康嗣、田中陽明、トコロアサオ+小川陽子、長岡勉、トマトインタラクティブ、西村佳哲、福田桂、ミュゼグラム、ミントス、flow、緒方寿人+宮田里枝子

「時間旅行」展 – TIME! TIME! TIME!
会期:2003年3月19日〜6月30日
会場:日本科学未来館
住所:東京都江東区青海2丁目41番地
TEL:03-3570-9151
info@miraikan.jst.go.jp
https://www.miraikan.jst.go.jp

Text: Chiaki Sakaguchi
Photos: Chiaki Sakaguchi

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