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アートデモ 2003

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

メディア芸術祭のインタラクティブ・アート部門の大賞作である「ソーシャル・モビリティーズ」は、本来だったら日本であるべき作品であった。また、日本でそこまでできなかったことの足りなさを痛感させられる作品だった。

ソーシャル・モビリティーズには5種類のSoMoと名付けられたGSM携帯電話(国際デジタル方式:ほとんどの国で使えるのに日本では使えない)によって構成されている。それぞれのSoMoは、話すと声の大きさによって受話器に電流が流れる(大声で話すと電気ショックで感電する)ものや、公衆の面前で迷惑電話をする人に対してお仕置きをするものなどマナーを改めさせるタイプのもの。音声を作り出すことで、話さなくても会話ができる、美術館でも図書館でも使えるもの、笛になっていて和音がダイヤルになっているもの(笛を吹いているときの周囲の反応で電話をしていいのかを感知できる)などマナーある使い方ができるタイプのもの。更には、電話機を叩く音を記憶してその叩いた音の癖を着信振動で伝えるものといった、コミュニケーションの変換がはかられたものなど、「携帯電話を取り巻く環境をどうデザインするかに意識を傾けてもらえるような提起」(ジョーンズ)が実際のものとなった作品である。

この実際というのが重要で、SoMoは、GSMネットワーク化では本当にその機能を持った携帯電話として機能する本当の作品なのである。会話飛び交う上海の飲茶屋で電流ショックを受け、キリマンジャロの麓の静寂な夜明けに彼氏からのノックが届くのである(残念ながら日本では体験できないが)。コンセプトや物理的なデザインだけしかできない日本のほとんどの若いアーティストたち、テクニカルな部分は企業などに任せないと自身では実現できようも無いと考える姿勢に浸りきっている環境の中で、クリスピンが活動をするロンドン、それだけでなく欧州や米国では現実に作りこまれてこそ作品であるというスタンダードに既になっていること、そうでないと評価されないことを思い知らせてくれる。

このSoMoは、薄くて軽くてメタリックなスタイリッシュなデザインではない、温かみがある丸みを帯びた少し大きめのデザインである。そうでないとこれらの機能を盛り込めないからかもしれないが、それよりも「人間が手作り以来培ってきたモノに対して、愛着を込められ、それによってコミュニケーションに対しても愛着を感じさせてもらえるようなデザインとしてみた」と、まさに電話機そのものではないモバイルに対する問題提起の意味を込めるためのデザインとして貫徹した構成であったのだ。

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