蜂賀亨 × 夏目彰「2001年へのモノ作り」

THINGSText: Akira Natsume

確かに音楽が持つ環境の変化はとても早かったと僕も思う。グラフィックデザインのインデーィーズシーンなんて昔はなかったと思うけど、音楽のインディーズは昔からある。その辺り差はでかいかなって気がします。デザインという言葉の意味が今問われているんじゃないかな。グラフィックデザインってやっぱり「何か」をデザインするという事だとおもう。アートや、音楽と違ってそのものだけ単体で商売が成立するものではないし、アートとも違うし、でも最近グラッフィックのインディーズな雰囲気は生まれつつあるように感じてます。GASBOOKでもそんな人達を集めてビジュアルコミュニケーションのマガジンを始めに作りたいといのも少なからずあったし、ジャケ買いしかりで、昔よりビジュアルに対する欲求は高まっていますよね。感覚的にあったビジュアルを選びとるという感じ。
情報至上主義的な雰囲気は大分なくなりつつあるのではないかなって思います。雑誌とかが、よく無理やり音楽のジャンルを作りたがっていたけどもうもうさすがに、着けられる名前も無くなったし、ファッションやその他もそうだと思う。ちょうど面白い時期に入りつつあると感じてます。いろいろな物事を言葉で答えるのが難しくなってきているというか、それは僕だけかもしれないけど。
デザインプレックスで、90年代と21世紀についての質問を作ったのですが、それもちょうどこの世紀末のまっただなかで、いろいろな物事が過渡期に入っているなって思ったからです。これからも新しいジャンルの作品はいろいろ出てくるとは思いますが、21世紀は、20世紀と違う動きをするんじゃないかなって思います。その核はやはり人間にあると思う。個人で感じる事の大きさが増すような感じ。蜂賀さんにとっての90年代と21世紀はどんな感じですか?

90年代は「もうリミックスしかない」って誰かが宣言してしまったみたいな気がする。でもあきらめちゃいけないと思う。きっと21世紀になれば、また新しい表現が出てくるにちがいない。出てきて欲しい。誰かはきっとそれをみても、「なーんだ、結局マネじゃない」とか「やっぱりリミックスじゃん」みたいなことをいうかもしれないけれど、私にとっては、いつも少しづつどこかが新しい表現とかが出てくると思う。出てきて欲しい。でも、実際にはあきらめたくないというのが本音なのかもしれないですけど。
だって、そんなこといっていたら。もうどこかの誰かみたいに、モノまねだけで、なーんにもしないやつが「デザイナーです。」とかいっていて、それが許されるような状況ってもう終わりだよね。それが本当の意味での世紀末で、ものまねだけでいいといって、許される。また、開き直った人達が沢山出てきたのが、90年代なのかもしれないな。そういった意味では90年代っていうのは、そういうのが許された時代かもしれない。許す側が悪いのか、やる側が悪いのか、やはりあきらめすぎだと思う。モノマネでもなんかすごくうまいものまねとか、感覚的にぐぐってくるやつだったら、いいんだけど、ただどこかの資料からひっぱってきて、マネして、フライヤーとか作っていて、デザイナーだっていっている神経を疑う。
90年代はそういうのが許されたけど、21世紀になったらそういうのが許されなくなって欲しい。
もう、これは希望だよね。なんかみんな、どこかモノまねがいいんだみたいな開き直りがありすぎて、そういった意味では私は今の若いグラフィックデザイナーとかにはもっとパワーをもって欲しい。まねだけではないものが欲しい。マネだけではないことをやろうとして欲しい。とにかくやってみて下さい。21世紀にはそういう人が出てきて欲しい。

それは何か難しい問題ですね。やっぱり音楽主導のグラフィックシーンかなって気がします。音楽がサンプリングして昔のネタを使えば、ビジュアルも又その頃の年代のネタを使う。ただ悲しいのが、昔のネタは良くできすぎていて、音楽にくらべてあまり手をいれられなかったという感じはありますよね。テクノなんかの新しい音楽は、また新しいグラフィックを生みだしたなと僕は思います。
でも、日本からすっごくオリジナリティーがあってむちゃくちゃかっこいいのって最近は生まれてないですよね。時代が求めていないのかも知れないけど。でも、気付いていない人は気付いていないと思うけど、何か目に見えない所で、新しい動きが始まっているように僕は感じます、グラフィックにかぎらず。それはやっぱりコンピュータの登場のおかげだと思うのだけど、全てコンピュータでやるというよりかは、コンピュータはもう一つの目とか手とか身体的に何かを拡張してくれたような気がします。そんなに偉いもんかという気もするけど、蜂賀さんはどうですか?

今自分のまわりにコンピューターとネットワークがなかったら、それはそれで、面白いのかもしれないけれど、今の自分にはあったほうがとっても面白い。楽しい。それが今だと思う。
マックのこととかあまりよく分からないけど。こういったネットワークのありかた、こういった切り口、+81のようにインターネットがなかったらできないような編集とか、そういった環境が私は面白いし、好きだ。
アナログが悪いなんてとか、アナログという言葉がそういった状況では会話のなかでは出てこない。出てこないってことは、だれもアナログとかデジタルって意識していないってことでもあるよね。そのくらい、自分にとって、アナログもデジタルもまるで関係ない、気にしていないって状況だと思う、それはみんなそうだと思う。みんなそんなこと気にしていない。
でも大切なのは、やはりデザインセンスだけだろうね。バランスとタイミングとそしてユーモア。

蜂賀さんはインタラクティブメディアをどうとらえていますか?

インタラクティブメディアについては、いろいろな可能性があるとは思うのですが、なかなかいいものが少ない。というか、CD-ROMというメディアが出てきたときに、あまりにも低俗なクオリティのものばかりが出てきたたために、多くの人々が CD-ROMというメディアにダマされ続けてきた。なかには、詐欺みたいなものも沢山あるし。
そういった状況が、ひととおり落ち着いてきたのでこれからは楽しみです。中には、いいものも確かに存在するので、そういったものがこれからもふえていくことを期待しています。

本当にそうだったらいいなって常々思います。僕は別にそもそもそんなにコンピュータが好きな人間じゃなかったけど、CD-ROMとかのインタラクティブメディアに曳かれたのはやっぱり、紙よりももっと表現の幅が広いメディアだったというのにつきますね。僕はもともとクラブなんかで遊んでいるのが好きだったんだけど、あの場所ってすごくマルチメディアなんです。音楽と同等に客層も大事だし、お酒も大事、全てのバランスがうまくとれているから面白い。
空間が面白いって思いました。DJと客の関係ってすごくインタラクティブだと思った。でもその頃の雑誌ってしょうがないけど、やっぱり限界があって音楽とかだけに焦点を絞っていくしかないじゃないですか、そうじゃなくてグラフィックも大事、音楽も大事、言葉も大事、シナリオや、リズムも大事という身の周りにある大事なものを包こむ事ができるマガジンみたいのがやりたかったんです。今でいう所のラウンジの考え方にかなり近いと思います。意識してるし。だから CD-ROMとかに関係ないものを付けているんです。僕はパッケージを意識している。まだまだだけどどんどん良くしていきたい。
蜂賀さんも、タイミングゼロに始まって今は「+81」どんどんコアなものを生み出していきますよね。すごく影響された人は多いと思う。僕もそうだと思うし。
最後に今回の+81の作業で、気付いた事や、面白かった事を教えてください。

毎回少しづつ内容も、見せ方も変えて良くなるようにしようと思っています。やはり、今はほとんどの雑誌が写真を中心にしたものが多いのですが、写真だけではない見せ方というのを考えています。こういった紙メディアも21世紀になれば変わっていくのでしょうが。
確かに写真は世界共通で、分かりやすく、美しいのですが、でもどの雑誌もそういったものになるということはおかしいのではないでしょうか?
どの雑誌も、写真とタイポグラフィばかりに気をつかっていて、みんな写真でごまかそうというか、「写真を美しくみせるのがデザインだ」みたいなことばかりに目が向いていて、ちょっとそのへんを「+81」ではなんとかしたいなと今は思っています。さっきの話ではないのですが、「写真さえよければいい」というデザイナーのいわば開き直りみたいなのが、逆に、「写真がなければデザインができない」みたいな状況になってきている。少し有名なフォトグラファーに写真をとらせて、フォトグラファーのクレジットがなかったら、全然評価されない写真集みたいなもの(写真集のようなもの)っていま、沢山ありますよね。もちろんいいものも沢山あるんだけど。でもなんか、写真、写真と騒ぎすぎのような気がする。そうじゃないアプローチのものがいまとても気になる。
そういったなかで(+81と)同じ光琳社から発売されている「zavtone」という雑誌は最近すごいと思っている。個人的には内容的にわからないこともあるけど、誌面からはとてもパワーを感じる。今号とかは凄いって思った。どんどん凄くなってきている。あれだけつっぱしる雑誌というのは他ではないし、できない。ああいったパワーをもった別のアプローチの雑誌やメディアが出てきて欲しい。他はどれも似たようなものばかりで。
「+81」は、やはり今後もしばらくはそういった部分で「+81らしい」といったことををできる範囲でやっていきたいです。一番大切なのは「+81」ならではの編集だと思っています。あと、最近はメディアの嘘が多すぎるの で、そのあたりは十分に注意しています。例えば、誰かと話していて「今こういったデザインが、」とか、このファッションデザイナーが面白いっていう話を聞いたあと、家に帰って雑誌をみると、そのままだったりするようなことは興ざめしてしまいます。まだ、雑誌とテレビをうのみにしている人がかなりいるみたいなので。そのあたりは、メディアをつくる側として十分に注意しなければいけないことでしょう。
なんか、これが流行っているっていうようなスタイルは作りません。

Text: Akira Natsume

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