マルク・シャガール 版にしるした光の詩(うた)

HAPPENINGText: Alma Reyes

シャガールは版画集「悪童たち」(1958年刊)で、アクアチント技法による初の多色銅版画に挑んだ。この絵本は、フランスの作家ジャン・ポーラン(1884-1968年)の文章をもとにした10点のオリジナル銅版画で構成されている。美術・文学界の知識人と親交のあったポーランは、シャガールとの友情を育んだ。本書のストーリーの中心は、主人公が思春期を内省し、“良い要素” を見つけるのに苦労しながら作家になる決心をすることである。この作品集の有名な挿絵のひとつである「無題(2)」は、両手を広げて宙を舞い、ペンとノートを手にする主題の仕草に、自己表現の自由を象徴する画家の夢見るような爽快感と飛翔の世界が描かれている。


マルク・シャガール版画集「悪童たち」1958年刊より

展覧会のハイライトは、版画集「ダフニスとクロエ」(1961年刊)だろう。1952年にギリシャの出版社テリアード(ストラティス・エレフテリアデス)が、ギリシャの詩人ロンゴスの小説をもとにした一連のリトグラフの制作をシャガールに持ちかけた。偶然にも、シャガールは2番目の妻ヴァレンティナ・ブロツキーとギリシャを旅行し、エーゲ海のきらめく光と島の美しさに魅了されたところだった。


マルク・シャガール「扉絵」(左)版画集「ダフニスとクロエ」1961年刊より

少年ダフニスと少女クロエの物語(モーリス・ラヴェルが考案したバレエ作品で、シャガールが新しいセットや衣装を手がけた)は、ギリシャのレスボス島で育った2人の孤児のロマンスを描いている。互いの愛を確かめ合う葛藤の中、ふたりは誘拐されるが(クロエは求婚者に、ダフニスは海賊に)、再会し、最後には結婚する。シャガールはこの艶やかな物語に魅了され、何年もかけて最初のガッシュとパステル画を描き、色彩の印象を完成させた。そして、1957年から1960年にかけて印刷された42点のリトグラフを完成させた。これらの作品は、愛、ロマンス、苦痛の表現に向かう彼の崇高な性質を真に体現し、彼のユニークな想像力と輝くアニメーションによって強化された、画家の最も驚異的なグラフィック作品とみなされている。


マルク・シャガール「牧場の春」(左);「狼の落とし穴」(右)版画集「ダフニスとクロエ」1961年刊より

「ダフニスとクロエ」の表紙としてデザインされた「扉絵」では、二人のロマンチックな主人公が描かれている(左のクロエは飽和した赤紫色で、右のダフニスは深い青色で対照的に描かれている)。ライムグリーンの木々、赤、黄色、青が散りばめられた中で、二人は感情の目覚めに夢中になっている。燃えるようなパッション・レッドの「牧場の春」には、星空のような風景の中に浮かぶ恋人たちの姿が描かれている。互いの欲望の象徴として印象的な女性の胸と舞い上がる鳥がアクセントを添え、緑のヤギは、物語の牧歌的な舞台を表している。

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