ドープ・ジャムス・レコード
PLACEText: Yuji Shinfuku
2012年現在のニューヨークではタワーレコード、HMVなど大手CDショップは軒並み全て閉店し、オンラインではなく自分で店に出向いて音楽を購入するのであれば、個人でやっているようなCD、レコードショップにいって買うしかないというのが現状である。少し前ならば考えられない状況であるが、筆者は近年この街に住み大手のCDショップが次々と我先にと店をたたむのを見、アメリカは何かシステムを変える時は根底から全て変えてしまうという事を目のあたりにした。変化し続ける街ニューヨーク。だからといって音楽に興味を持った人が減ったわけではもちろんなく、多国籍な人種が入り交じるこの街では昼夜問わず音楽が聴こえ人々は刺激的な音楽、音楽が流れる場所を探している。
ドープ・ジャムス・レコード(Dope Jams Records)はフランシス・エンゲルハードとポール・ニッカーソンの2人によって2005年にオープンして以来、ダンスミュージックを中心にしたセレクションでコアな音楽好きから支持を集めてきた。膨大な知識と経験に裏打ちされた型、ジャンルにとらわれないセレクションが魅力である。レコード、CDの他にも本、Tシャツやインセンス(お香)などのアイテムが揃う。
店内の内装は少し変わっていて、アフリカの民族のマスク、置物などが飾られ、中東の儀式で使われるような道具などがレコードやCDの横に陳列されていたりする。エスニックで祝祭感を感じさせるような雰囲気なのだが、単に奇抜というのではなく店内の商品、雰囲気等はとてもマッチしているように感じる。
© Dope Jams Records
メインの商品であるレコードのセレクションは80年代の「パラダイス・ガレージ」に代表されるディスコからはじまり、様々なスタイルのハウスミュージック、ヒップホップ、ファンク、ロックさらにはテクノやダブステップなどの最新の音楽も揃う。新譜、旧譜問わず世界中のレコードが集められているが、アメリカ国内の物がやはり量的には一番多く、デトロイトのDJ・プロデューサーのセオ・パリッシュのレーベル「サウンド・シグネチャー」や、ニューヨークのアフロアメリカン、ジョー・クラウゼルのレーベル「スピリチュアル・ライフ・ミュージック」、「メンタル・レメディ」といった世界中のダンスミュージック愛好家に支持されるレーベルのカタログが揃う。
今のこの時代そしてこれからも“世界の中心”という場所はもう存在しないであろうが、ディスコがニューヨークで産声をあげた当時この街はまぎれもなく世界の中心であった。ここではそんなディスコ黎明期のレコードから90年代を経て今に至るダンスミュージックの流れ、歴史のようなものを感じる事ができる。彼らはただ自分達の好きな物をセレクトしているだけだというが、そこには彼らの長きにわたる経験がにじみでているように思う。
また王道なサウンドではない少し毛色の変わった音源も揃っていて、そんなレフトフィールドな音楽をカバーしている事も魅力の一つである。インタビューのためにお店に伺った時には、陽の光が差し込む店内にお香が空気に漂い、いつのどこでつくられたものであろう中東の旋律をもったジャズのようなロックのような音楽が流れ、ここは本当にニューヨークだろうかという気分になったのを憶えてる。しかしそこにある音楽と内装などはとてもフィットしていて、そのバランスはある種とてもニューヨークっぽいという風にも感じられる、そんな不思議な雰囲気を持ったお店である。
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