イーストロンドン・アート・ウォーク
もうひとつ、面白い展示スペースがあるのが、ティー・ビルディング。その名の通り、昔は紅茶の倉庫だった。ここにヘールズとロケットという2つのギャラリーが入っている。
前者では、コミックアートのようなタッチを使い、辛らつに現代社会を描いてみせる注目のアーティスト、アダム・ダントの展覧会を開催していた。オランダの画家ブリューゲル的と言われるその巨大な絵の作風はかなりユニークで、観客はみな釘付けになっていた。後者ではドイツの作家、ラース・ウオルターの展覧会展を開催していた。
それぞれそれほど大きくはない展示スペースながらも、作家のチョイス、見せ方など、どちらも非常にワクワクするものであった。また、ビルの中にはギャラリー運営オフィスとアートブックストアも併設されていて、ビル全体が「何か起こっている」感に満ちた、イーストロンドンらしいスペースであった。
こうして次々とギャラリーを見てきたが、肝心の作品たちはどうかというと、ずば抜けたものからピンとこないものまで、端的に言えば玉石混合。でもその混合具合が、このツアーの最大限の楽しみである。
大型美術館で、ハイクオリティがあらかじめ保障されている作品たちを見て回る合理性、それはそれで面白い。しかし、扉を開けるたびに、思いもよらぬ作品たちに出会い、「どうか」と自分に問うこと。回答はどこにもない。ただ、裸の自分の心と向き合う。能動的になること、それがこのツアーを楽しむポイントだ。小さな扉のベルを鳴らし、ギャラリストが笑顔でドアを開けてくれて、ギャラリーに入っていく。その度に知らなかったアートと出会う。
最後は、このツアーのガイドであり、自ら画家でもあるルシンダのアトリエにお邪魔した。イーストロンドンのはずれ、なんの変哲もない古くて大きなビルの中にアトリエはあった。このビルをなんと総勢50名のアーティストが使用している。この辺りには、こんな建物が沢山あるという。
窓からは遠く、ロンドンの建設ラッシュのクレーンが見える。遠くを見ながら彼女は言った。『オリンピックが来るから、このあたりも再開発が進み、やがて私たちもどこかに行かなければならない。』『でも、どこに?』私が聞くと、『I don’t know(分からないわ)』と、彼女は肩をすくめて笑った。
そう、生きている都市では全てが変容する。ここイーストロンドンも例外ではなく、何もかもが移り変わっていくのだ。イーストロンドンの「今」。たった5ポンドのツアーで、それを垣間見ることができた気がした。
EAST LONDON ART WALKS
日時:2007年4月21日(土)
会場:イーストロンドン
TEL:+44 (0)20 7739 1743
主催:COMMENT ART
https://www.commentart.com
Text: Sawako Kanematsu
Photos: Sawako Kanematsu
