ニーブス・ブックス

PLACEText: Nem Kienzle

ベンジャミンはインスピレーションを普段の生活から受けているという。例えばモーリス・センダックの「かいじゅうたちのいるところ」やトミー・アンゲラーの「すてきな三にんぐみ」のような絵本。それから日本から届いたお気に入りの一冊「表紙とカバー World Paperback Design」も見せてくれた。1960-70年代にポール・ランド、ディック・ブルーナ、ブルーノ・ムナーリ、ベン・シャーンなどの世界中のグラフィックデザイナー、イラストレーターによって手がけられたペーパーバック装丁デザインをまとめてある本だ。


ニーブス・ブックスのロゴ

ベンジャミンは、ありとあらゆる通信手段からシャットアウトされ、完全にリラックスしているときにインスピレーションが湧くこともある、と言う。黒いおばけが本を読んでいるニーブス・ブックスのロゴは、イタリアで休暇中に思いついたそうだ。ベンジャミンの良き友人でフリーランス編集者でもある林央子さんはブログに「彼自身が描く絵はとてもレアなのですが」と書いている。

他のインスピレーションは異文化からきているのではないか、と思ったのは、ベンジャミンのオフィスを訪ねたとき。35℃の猛暑のなかで(もちろんオフィスにクーラーなし)熱いお茶をすすりながらNHK教育TVの「ピタゴラスイッチ」を観ていたからだ。思った通り親日家だった。日本へは何回も足を運んだことがあり、タイクーングラフィックスでも2ヶ月間研修をしたことがあるそうだ。

その後もロケットギャラリーで「Nieves Books Exhibition」を開催したり、数々の日本人アーティストとコラボしている。その中からホンマタカシによるプライベートな写真集「Tokyo and my Daughter」と林央子編集による「Here and There Vol.6」がつい最近ニーブスから出版された。


ホンマタカシ「Tokyo and my Daughter」 (ニーブス・ブックス出版)

この仕事をしていて一番嬉しいのは、気になるアーティストに本の制作の話を持ちかけて快く承諾してもらったときだという。もっと嬉しいのは、アーティストが自分と同じぐらい本の完成を楽しみに待ってくれている、ということを知った時。ニーブスのウェブサイトのアーティスト一覧からしても分かるように、ベンジャミンの選択には並じゃない気合いを感じられる。

じゃあ、どうやってアーティストを選択・発掘しているんだろう?ベンジャミンが言うには、特に作戦があるわけでもなく、気に入った作品とアーティストを直感で選んでいるだけだという。本当のことをいうと、ただ自分の好きなことをしているだけなんて、なんと羨ましい仕事だろう。しかし、既に有名なアーティストを起用する背景には、その知名度にあやかってニーブスの名前や無名の新人アーティストを宣伝する効果も考慮されている。特に意識している対象層はないけれど、二十代から三十代後半までのデザインが好きなひとたちが主に彼の本を買ってくれているそうだ。


ジェフ・マクフェトリッジ「It Looks Like A Smile」(ニーブス・ブックス出版)

無名アーティストを選ぶときは、これからの活躍を見込んで起用している。インターネットをブラウズしているときに気になるアーティストを見つけることもあれば、キム・ゴードンのようにギャラリーを通して連絡をとるアーティストもいる。それから友人からアーティストを紹介してもらうこともある。コーネル・ウィンドリンはアリ・マルコポロスを、林央子さんはホンマタカシを紹介してくれた。ほとんどのアーティストが無償で作品提供をしてくれている。その見返りにニーブス・ブックスから自分の本が出版される。

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